宗教文化の研究をもとに、現代の諸問題に実践的・臨床的に取り組む

上智大学にこれまで蓄積されてきた宗教や倫理に関わる学問領域とケア関係の学問領域、および現代社会の課題に対処する学問領域を総合的に結びつけ、日本における実践宗教学ならびに死生学の研究教育の中心的拠点を形成するとともに、上智大学の教育精神“for Others, with Others(他者のために、他者とともに)”を現代社会に展開すべく、2016年4月に「実践宗教学研究科死生学専攻」(修士課程)を開設しました。そして、その教育研究をさらに発展させるため、2018年4月に博士後期課程を設置しました。

実践宗教学研究科死生学専攻は、日本における実践宗教学や死生学の研究教育の向上を先導することを使命とし、この領域における学術的専門人材や、高度な専門性が求められる職業を担う人材を育成する、日本初の大学院として、重要な役割を担っていきます。

カリキュラムの特徴

死を基点にして人間の生や社会のあり方を広く研究するのが、死生学という領域です。死生学は、神学、宗教学、哲学、倫理学、社会学、福祉学、医学、看護学、文学、芸術などの幅広い領域に関わります。さらに、生きる意味の喪失に苦しむ人々に対する臨床スピリチュアルケアの実践とその研究も、死生学の重要な柱となっています。死生学は、死から生を考え、より豊かな生を送ることができる社会を構築することを目指します。

従来、こうした死生学的課題を社会で担ってきた領域の一つが宗教でした。宗教が現代のグローバル化した社会が抱えるさまざまな課題に向き合うなかから生まれた新しい学問が実践宗教学です。心のケアや社会福祉事業、平和構築など、宗教が現代の公共空間において果たす役割をとらえ直し、世俗的な価値観と宗教的・伝統的な価値観との関係を考察することで、現代の死生学的課題に対して実践的・臨床的に対応していくのが、実践宗教学の役割です。

授与学位

  • 博士前期課程:修士(文学)
  • 博士後期課程:博士(文学)

取得可能な資格

  1. スピリチュアルケア師(*1)の受験資格(修了要件単位に含まれる科目の履修で可能)
  2. 認定臨床宗教師(*2)の申請資格(修了要件単位に含まれる科目の履修で可能)

*1 一般社団法人日本スピリチュアルケア学会が認定する資格
*2 一般社団法人日本臨床宗教師会が認定する資格で、各宗教団体・寺社教会等に所属する、信徒の相談に応じる立場にある宗教者(聖職者)が対象。

死生学専攻の特色

研究対象とする中心的な学問分野

現代社会の宗教的・思想的基盤について、批判的かつ建設的に研究するとともに、現代社会の新たな課題として取り組みが求められる以下3 つの領域を「死生学的課題」と捉え、宗教・思想研究、応用倫理・死生観研究、臨床ケア実践に関する高度な研究を行います。

死生学的課題 研究対象
1. 宗教の公共性 宗教間対話・宗教協力
価値多元社会における宗教の社会的役割等
2. 死生観・生命倫理 いのち・平和・環境をめぐる価値観
医療現場・先端科学技術の倫理等
3. 臨床スピリチュアルケア 医療・看護・福祉・教育等におけるケア
心身観・生命観・世界観とケア実践
多様な死別や喪失に関わるケア

修了後の進路、経済社会の人材需要の見通し

実践宗教学研究科が研究対象とする3つの死生学的課題に照らして考えられる修了後の主な進路は、「研究者としての進学」に加えて以下のようになります。

死生学的課題 養成する人材像
1. 宗教の公共性 宗教の公共的な活動の専門家として、宗教団体・NPO・行政機関等での活動
2. 死生観・生命倫理 生命倫理・死生学専門職として医療・福祉・研究機関等での活動
3. 臨床スピリチュアルケア チャプレン、臨床宗教師、スピリチュアルケア師等のこころのケア専門職、医療・看護・福祉・教育・行政の専門職あるいは地域でのケアの実践者等としての活動

働きながら学べる昼夜開講制と長期履修制度

社会人が働きながら学ぶことができるように、昼間および夜間の双方の時間帯にまたがって授業を実施し、必修科目を含めて半数以上の授業科目は夜間開講としています。さらに、2018年度から長期履修制度を導入しました。これは就業している学生の場合、2年間の学費で3年間在籍し研究できるという制度です。博士前期課程対象。

修了生の最近の主な研究テーマ

博士前期課程

  • 「 わたしとは何か」を知るための道具 ― ヴェーダーンタの日本における受容史・解釈史に関する研究 ―
  • 精神科に従事する看護師が患者の⾃死から受ける悲嘆の特徴
  • 臨死体験者は何を見て何を語っているのか ─ 西洋と日本の比較からみえる共通点・相違点 ─
  • 現代日本人が抱く死者のイメージについて ――「 現代民話」にみる多様な死者像
  • 追悼の変遷からみるデジタル追悼の特徴 ―― 空間的変化と新たなる追悼の規範に着目して ――
  • 障害児の母親と教師 ― 教師の自己エスノグラフィーを通して ―
  • ⾃然災害に起因する避難⽣活経験者の語りから考える〈⽣きがい〉 ― 2000年三宅島噴⽕
  • 被災者の語りから考える〈⽣きがい〉とスピリチュアルケアの可能性 ―
  • がん患者に対する統合医療として瞑想がどのような役割を担えるか
  • 傾聴者養成におけるグループワークで学習者が体験することの意味とは ― 学習者による⼀考察 ―
  • 日本のキリスト教系病院におけるキリスト教チャプレンの在り方と実践 ─ 共苦の共同体としての病院におけるチャプレンチームの形成に向けて ─

博士後期課程

  • 自殺幇助は認められないのか ―「脆弱性」の射程 ―
  • ソーシャルメディアにおける「病いの語り」をめぐるエスノグラフィー

教育の方針

博士前期課程

本課程では、学生が修了時に身につけるべき能力や知識を次のように定めています。修了要件を満たし論文審査に合格すれば、これらを身につけたものと認め、学位を授与します。

 

  1. 「宗教の公共性」「死生観・生命倫理」「臨床スピリチュアルケア」のいずれかの学問分野における研究課題を理解することができ、基礎的研究に主体的に取り組む力
  2. 現場における研究の実践的な意味や役割を理解する力
  3. 論理的かつ学術的に構成された修士論文をとおして、実践的課題探求並び学術に貢献する力

博士後期課程

本課程では、学生が修了時に身につけているべき能力や知識を次のように定めています。修了要件を満たし論文審査に合格すれば、これらを身につけたものと認め、学位を授与します。

 

  1. 宗教学を核とする人文学の高度な専門知識もしくは学際的知識を基礎に、実践宗教学における独立した研究者として学術に貢献できる力
  2. 研究対象となる実践現場の思想的宗教的基盤および社会背景に深い理解を持ち、実践的課題探求や後進の育成に教育者・実践者として貢献できる力
  3. 高度な実践的課題探求並びに学術に貢献できる高い水準と独創性を備えた博士論文の完成

博士前期課程

本課程では、ディプロマ・ポリシーに沿って、以下の趣旨を盛り込んだ科目によってカリキュラムを編成しています。

 

  1. 必修科目「死生学研究法Ⅰ」「死生学研究法Ⅱ」「英語文献購読」を通して研究の基礎となる方法論や研究倫理を修得する。「宗教の公共性」「死生観・生命倫理」「臨床スピリチュアルケア」の3学群から、演習科目3科目(6単位)を選択必修科目として履修し、研究学問分野について研鑽を深める。さらに、選択科目を通して関連領域の学際的知識を深める。
  2. 宗教・伝統・歴史・思想にかかわる人文社会科学の高度な学際的・専門的知識を深めると同時に、インターンシップ科目や実習科目の履修で死生学的課題の現場に直接参与する経験を通し、死生学的課題について実践的な問題理解力を修得させる。
  3. 入学直後に指定される指導教員による、毎学期の「研究指導」科目における密接な研究指導のもと、適切な課題理解と研究方法に基づく修士論文を作成させる。

博士後期課程

本課程では、ディプロマ・ポリシーに沿って、以下の趣旨を盛り込んだ科目によってカリキュラムを編成しています。

 

  1. 「実践宗教学コロキウムⅠ」「実践宗教学コロキウムⅡ」を必修科目として配置し、学術研究に不可欠な建設的批判を行う能力と研究倫理を身につけ、研究基礎力を養う。
  2. 学生の多様な目的意識と学問的関心に対応するため、複数の領域から自己選択できる特殊研究科目群を配置し、その履修を通じて研究分野について研鑽を深め、高度な死生学的課題に係る知識を身につける。ケア実践力強化を必要とする学生は、現場実習を含む科目の履修を通じて、臨床実践力・指導力を養う。
  3. 個別の課題に応じた研究指導により研究応用力ならびに表現力を身につけ、研究計画審査を経て、研究者として求められる高度な専門性と独創性のある研究力ならびに教育者として求められる確かな教育能力を身につける。
  4. 科目履修および研究指導をふまえ、予備論文の審査を経て、実践的視野を備えた独創的で主体的な研究計画のもと、博士論文の執筆をさせる。

博士前期課程

本課程は、次のような資質を持つ学生を求めています。

 

  1. 人文学・社会科学・心理・福祉・医療等の分野において学士の学位を取得しているもしくは取得予定で、現代社会で生じるさまざまな問題に対して宗教文化や倫理思想的伝統を踏まえて対応する知の領域、もしくは人文社会科学とスピリチュアルケアの実習を土台に医療やケアの諸問題また地域社会の実践的・臨床的な問題に対応する実践的領域に関心のある学生
  2. 日本スピリチュアルケア学会認定教育プログラム等において、グリーフケア、スピリチュアルケア提供者としての訓練を積み、さらに高度なケア人材としての研鑽を望む学生
  3. その他、上記と同等の学力・適性を有する学生

博士後期課程

本課程は、次のような資質を持つ学生を求めています。

 

  1. 実践宗教学研究科博士前期課程もしくはこれに相当する課程において修士の学位を取得した者、同等の知識ならびに研究の潜在力を有する者、専門領域において深い実践活動を積んだ者
  2. 現代社会で生じるさまざまな問題に対して、宗教・文化・倫理・思想的伝統を踏まえて対応する知見および感性を有する者
  3. 人文学とスピリチュアルケアの実践を土台として、医療やケアの諸現場もしくは地域社会の実践的・臨床的な問題に関わる関心を持つ者

教員一覧

浅見 昇吾 教授

研究分野 ドイツの現代思想に基づく生命倫理の研究
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葛西 賢太 教授

研究分野 依存症回復と宗教、傾聴・傾聴者養成の方法論とその国際比較
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佐藤 啓介 教授

研究分野 現代宗教哲学、死者倫理、現代フランス哲学
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武田 なほみ 教授

研究分野 生涯発達論、キリスト教信仰と人間形成
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寺尾 寿芳 教授

研究分野 宗教哲学、死生学、近現代日本のカトリシズム

吉田 美和子 教授

研究分野 ソマティック(身心)教育

酒井 陽介 准教授

研究分野 宗教心理学、キリスト教霊性と人間発達、臨床心理学(精神力動的アプローチ)、物語分析を用いての人物研究
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上智大学 Sophia University