ソーシャルメディアや消費者行動の分析を通じたデータドリブンなマーケティング

経済学部経営学科
准教授 
大竹 恒平

マーケティング・サイエンスが専門の経済学部の大竹恒平准教授は、数理的な手法を使って企業のマーケティング課題を解決する方法を研究しています。インフルエンサーや消費者の視線データにも着目する、最新のマーケティング・サイエンスとは?

マーケティング・サイエンスとは、客観的なデータと論理に基づいて市場を捉えるための基本的な考え方や具体的な方法を探究する学問です。私の研究室では民間企業・団体との共同研究を積極的に行い、企業から提供を受けた実データを用いた、マーケティング課題の解決に取り組んでいます。

企業によってマーケティングの課題はさまざまです。研究の流れとしては、まず企業のマーケティング担当者やデータサイエンティストとの議論を通じて、課題を正しく把握し、課題の解決に利用可能なデータを選定します。それから、機械学習や多変量解析を用いて分析し課題解決を目指します。研究結果に基づく施策を実施し、役に立ったという声を聞くと、とても大きな喜びを感じます。

マイクロ・インフルエンサーを用いた効果的なインフルエンサー・マーケティング

最近は、ソーシャルメディアのデータや生体データをマーケティングに活用する方法を研究しています。昨今、インフルエンサー・マーケティングの文脈において、特定のドメインにおいて非常に強い影響力を持った、マイクロ・インフルエンサーの存在に注目が集まっています。商品ドメインについてどの程度投稿して知識を有しているのか、ユーザが有するネットワーク(フォロワー)は商品に興味を持つ可能性が高いかなど、企業側の視点でマイクロ・インフルエンサーを評価可能な新しい指標づくりに取り組んでいます。

生体データでは、特に消費者の視線に注目しています。購買行動中に取得した視線データを用い、顧客特性を加味したビジュアルマーチャンダイジングの提案や、テナント間の関係性の評価に取り組んでいます。将来的にはこの研究を、ECサイトと連動したメタバース空間の店舗づくりに役立てたいと考えています。ECサイトに蓄積されたデータを、視線データをはじめとした生体データと合わせることで、顧客一人ひとりに対してパーソナライズされた商品やサービスの提供を実現していきたいです。

研究活動を通じたデータサイエンティストの育成

企業にとっては、私たちとの共同研究で最新の分析手法を通じた、データドリブンな意思決定を行える点がメリットであると考えています。実際に企業の方とお話をしていると、データの蓄積はしているもののどう活用していいかわからない、あるいは日常の業務に追われて社内のちょっとしたアイデアを検証できないという声もよく聞きます。実はそうしたアイデアにこそ、マーケティング施策の立案に重要となる要素が含まれているのです。今後はさらに多くの企業とコラボレーションしていきたいですね。

学生にしてみると、実務に近い形で研究に携わる意味は大きいでしょう。これまで指導してきた学生には、データサイエンティストを目指す学生も多くいました。華やかな部分にフォーカスされがちですが、実は意外と泥臭い部分も多いです。例えば、分析する前にはデータの重複や欠損、表記ゆれなど不適切なデータを識別し、修正する必要がありますし、分析にフィットする形式に整える必要があります。このような作業は非常に地道ですが、分析の精度向上の点からもとても重要です。データと時間をかけて向き合い、トライアンドエラーを繰り返しながら、一人前のデータサイエンティストへ成長してほしいですね。

この一冊

『フリー』
(クリス・アンダーソン/著 小林弘人/監修・解説 髙橋則明/訳 NHK出版)

さまざまなサービスはなぜ無料で利用できるのか、そのビジネスモデルをわかりやすく解説した一冊です。オンライン・コミュニケーションに関心が強かったので、学部生の頃に読んで大きな刺激を受けました。

大竹 恒平

  • 経済学部経営学科
    准教授

慶應義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了、博士(工学)。中央大学 理工学部経営システム工学科助教、東海大学情報通信学部情報通信学科専任講師を経て,2024年より現職。

経営学科

※この記事の内容は、2024年5月時点のものです

上智大学 Sophia University