英語教授法が専門の外国語学部のロバート・マッキンタイヤー准教授。自らも英語を教えつつ、より実践的なアカデミック・ライティングやコミュニケーション重視の英語を教える手法について、研究しています。
上智大学ではさまざまな形で英語を学ぶことができますが、私が授業で教え、かつ研究の対象としているのは、アカデミック・ライティングです。論文などの学術的な文章の書き方について教えつつ、その教授法について研究しています。
アカデミック・ライティングでは、読者に強い印象を与えて文章へ引き込む必要があります。そのためには、使用する文体が非常に重要です。学術文章は一般的に、一文が極端に長くなったり言い回しが複雑になったりしがちです。ネイティブスピーカーでさえ、一読では理解できないことがあります。しかし、書き方のパターンを習得すれば、読者に響く文章が書けるようになります。
学生が書いた論文やレポートから、膨大な数の文例を集めたデータベース、いわゆるコーパスを作成しました。強い主張や自分の考えを表現したりするとき、書き手は特定の言葉や言い回しを選択します。このコーパスを分析しながら、書き手がなぜその言葉や言い回しを選んだのか、またどのように選んだのかについて調べています。
このようにして、学生のライティングスキルを向上させるにはどうしたらいいか、教授法はどうあるべきか、日々探求しています。研究成果から得たアイディアは、実際に授業にも取り入れて検証しています。
日本の英語教育の課題
アカデミック・ライティングの教科書には「すべきこと」「してはいけないこと」を強調して書かれたものが少なくありません。たとえば、英語で論文を書くときは「I(私)」を決して使うべきではない、と教科書には書かれています。ところが実際には「I」や「Ithink」を使っている論文はたくさんあり、同様に「surprisingly(驚くべきことに)」「interestingly(興味深いことに)」「It is important~(~は重要です)」などの自分の主観的な見方を示す表現も、一流紙に掲載されるような論文で使われています。
高校と大学のそれぞれの学びに連続性がないことが、日本における英語教育の混乱の一因であると私は考えています。大学入試に向けて懸命に英語を勉強してきたはずなのに、いざ入学して授業で論文を書けと言われても書けない。このギャップを埋める英語教授法を考える必要があります。
理論だけでなく、実践を追求する
私のもう一つの専門領域は、コミュニカティブ言語教授法(Communicative language teaching=CLT)です。CLTは、実際のコミュニケーションに使える外国語運用能力を養うことを目的としています。私は、所属する英語学科で英語教員を目指す学生を指導する一方で、彼らが将来英語教員になったときに実践的なコミュニケーション英語を効果的に教えることができるように、CLTの開発をしています。
自信を持ってコミュニケーション英語を教えられる教員を育成するには、国による英語教育への多くの予算とリソースの配分が不可欠です。中学や高校の先生たちがコミュニケーションに重点を置いた教材を使いこなすためには、準備時間や支援が足りていません。日本の教育予算は、GDP比率でG7各国と比較した場合、最低レベルです。
英語教育の理論を学ぶことと、教育現場で役立つ実践的なコミュニケーション力を習得することは、全く違います。私は理論にこだわり過ぎることなく、伝わるコミュニケーションにつながる教授法を追求しています。充分なエビデンスが集まったら、英語のCLTについて理論的に解説した本を書きたいと考えています。
この一冊
『How Languages are Learned』
(Patsy M. Lightbown, Nina Spada/著 Oxford University Press)
外国語の習得について書かれた本。言語学の学術本は読みづらいものが多く、私も学生時代は苦労しました。この本は複雑な概念をシンプルに解説してあり、楽しく学ぶための工夫もされています。大学院生にもお勧め。
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ロバート・マッキンタイヤー
- 外国語学部英語学科
准教授
- 外国語学部英語学科
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大学卒業後4年間会社員として働いたのち、英語教員を目指し、2002年にマンチェスター大学で教育学のMEdを、2015年にイギリスのエセックス大学で言語学のPhDを修了。2008年より上智大学に勤務。
- 英語学科
※この記事の内容は、2022年7月時点のものです