街路景観AIと国勢調査を活用し、街路環境と人口構成のミスマッチを可視化
本研究の要点
- 都市の評価軸を「どれだけ改善したか」から、「物理的な改善が包摂性に関わる人口構成とどこで整合し、どこでずれているか」へ転換しました。
- 街路景観画像、深層学習、国勢調査を100 mグリッドで統合し、街路空間の質(SQ)と社会的包摂性(SI)の代理指標の相対順位から3種類のミスマッチを識別しました。
- 2015~2024年の東京ではSQの都市平均がほぼ変わらない一方、内部では「高活力・低開放性」への再編が進み、平均値が大きな構造変化を隠すことが明らかになりました。
- ミスマッチは東部・湾岸へ拡大する一方、政策インセンティブは都心部に集中しており、一律整備ではなく地域別の介入が必要であることを示しました。
研究の概要
上智大学大学院地球環境学研究科博士後期課程のShujie Sun大学院生, Jiushuai Zhao大学院生, および銭 学鵬 教授を中心とする研究グループは、City University of Hong KongのLiang Dong教授, Nanjing University of Information Science & Technologyの Hanwei Liang教授、Xi’an Jiaotong UniversityのChenyang Wang氏、Renmin University of ChinaのYujin Huang氏およびJinming Yan教授, Adelaide UniversityのJian Zuo教授らと共同で、東京において、都市の物理的な改善が包摂性に関わる人口構成と空間的に整合しているかを街路レベルで検証する、新たな都市診断手法を開発しました。
本研究では、街路景観画像の深層学習分析と国勢調査の地域統計を組み合わせ、街路空間の質(Street-Space Quality: SQ)と社会的包摂性(Social Inclusion: SI)の空間的なずれを分析しました。街路空間の質は人の目線から見た環境容量を表し、社会的包摂性は、実現された包摂そのものではなく、社会人口構成の多様性を示す代理指標として用いました。両指標を100 mグリッドで計算し、1 km単位に集約したうえで、順位差(Rank Difference: RD)から3種類の相対的なミスマッチを識別しました。
2015年から2024年にかけて、東京のSQの都市平均はほぼ変化しませんでした。しかし、平均値がほとんど変化しない一方で、歩道、ファサード透過性、街路活力は改善したものの、緑視率、天空率、開放性が停滞または低下しており、構造転換が進んでいました。また、SIは都心部と西部副都心で強まる一方、湾岸部では弱まりました。
SIに対してSQが相対的に不足するType Iは東京東部や湾岸へ拡大しました。SQに対してSIが相対的に低いType IIIは縮小しながらも北西部に残存しました。この結果は、都市の持続可能性を単一の総合点ではなく、「どの地域で、どの種類のずれが生じているか」という空間的整合性の問題として捉える必要性を示しています。本研究成果の正式版は、都市の持続可能性に関する研究を掲載する国際学術誌『npj Urban Sustainability』に、2026年9月8日付でオンライン掲載されました。
論文名および著者
- 媒体名
npj Urban Sustainability
- 論文名
Street view diagnostics of inclusion and street quality gaps to guide governance in Tokyo
- オンライン版URL
- 著者(共著)
Shujie Sun, Yujin Huang, Jiushuai Zhao, Hanwei Liang, Chenyang Wang, Jinming Yan, Jian Zuo, Xuepeng Qian, Liang Dong
研究の背景:都市の「改善」と「整合性」は同じではない
世界の都市は、気候リスク、高齢化、人口移動、再開発、公共空間の質向上という複数の課題に同時に直面しています。SDG 11はこうした多面的な都市目標を掲げていますが、その進捗は都市全体の平均値で評価されることが少なくありません。平均値は都市全体の性能を示す一方、地域の人口構成と日常生活の場である街路環境が噛み合っているかまでは捉えられません。
従来研究は、街路空間の質と社会的包摂性を別々に評価する傾向がありました。東京は、高水準のインフラと都市サービスを持ちながら、都心、副都心、湾岸再開発地域、周辺部の間に細かな格差が残るという、先進都市に共通する逆説を検証する重要な事例です。都市ガバナンスの核心は、単に空間を改善することではなく、改善が不足する場所、人口構成とのずれが生じる場所、そして地域ごとに必要な介入の種類を特定することにあります。
本研究の意義:都市の評価を「性能」から「整合性」へ
本研究は、都市の持続可能性を単一指標の最大化ではなく、建造環境の容量と包摂性に関わる人口構成の「整合性」として捉え直しました。これにより、都市平均に隠れたトレードオフと空間的不均衡を可視化し、SDGs目標 11「住み続けられるまちづくりを」を地域別の政策優先順位に落とし込みます。SIは人口構成の代理指標であり、実現された包摂を直接測るものではないため、本手法は公平性に関わる課題を発見する診断枠組みとして位置づけられます。
今後の展望
本手法は、高齢化・多様化・再開発が進む他都市にも応用可能です。今後、アクセシビリティ、障害、所得、参加、生活実感のデータや政策効果の因果分析と組み合わせることで、ミスマッチの発見から、その縮小策の検証へ発展できます。
用語
- 社会的包摂性(SI): 性別、年齢、国籍、世帯、職業、居住移動性などの多様性に基づく、包摂性に関わる人口構成の代理指標です。実現された包摂を直接測定するものではありません。
- 街路空間の質(SQ): 街路景観画像から抽出した活力、歩行環境、安全性、緑、開放性、視覚的多様性の統合指標です。
- 順位差(RD): 同一地域におけるSIとSQの相対順位差で、人口構成と街路環境供給の比較上のずれを示します。
本研究内容に関するお問合せ
上智大学大学院 地球環境学研究科 教授 銭 学鵬 (qianxp@sophia.ac.jp)
報道関係のお問合せ
上智学院広報グループ (sophiapr-co@sophia.ac.jp)