人の心を読み解く上で大切なのは、その人の目で世界を見ること。

総合人間科学部心理学科4年
高橋 愛音

学びの中で「人の見え方がガラッと変わった瞬間があったんです」と語る総合人間科学部心理学科4年の高橋愛音さん。難易度の高い課題に取り組みながら、留学生や子どもたちと関わる中で彼女が得た、心理士になる上で欠かせない気づきとは?

「人の心は分からない」というひと言で心理学に興味を抱く

総合人間科学部の全学科に共通するのは、人との関わりが中心になっていること。心理学の考え方が社会福祉や看護に役立っていたり、教育学の考え方が心理学に影響していたりという相互作用を学べる面白い学部です。

私は心理士を目指しているので、公認心理士と臨床心理士の資格を取るために心理学科を選びました。心理学や心理士に初めて興味を抱いたのは中学時代。スクールカウンセラーの先生に、小学校の時から抱えていた心のモヤモヤを打ち明けたら、気分がとてもスッキリしたんです。話を聞いてもらえるということに大きな安心感を覚えましたし、私の気持ちをピッタリと言い当てるので、先生には私の心が読めるんだなあと思っていました。でも、その先生が「人の心は分からないものなのよ」と言ったんですよね。それがすごく印象的で、私もちょっと“そっち側”に行ってみたい、心理士になりたいと思うようになりました。その先生が上智大学の心理学科の卒業生だったので、私も上智を目指すことにしたんです。

それでも入学前は正直、その資格に必要な知識が得られればいいかぐらいの気持ちでした。心理学を勉強すれば、人の心が読めるようになるようなイメージでいたんです。でも、4年間の学びを通して人に関する考え方が広がり、心理学は「その人がどんな人で、どんな状況なのか」を当てる学問ではなく、「その人が今どんなことを感じているか」を理解するために全力を傾ける学問であると感じるようになりました。授業では、動物と人間の違い、記憶力や顔の判別といった人間を人間たらしめる能力について深く考えるだけでなく、その能力が損傷してしまった人の苦労や苦痛も知ることができました。動物にはないけれど、人間にはあるものに気づくことも多かったです。

人を多面的に見ることで、人に対する気持ちが変わった

特に印象に残っているのは、「心理学研究法ⅢAーロールシャッハ」という授業です。ロールシャッハは、インクの染みが何に見えるかをもとに、その人のあり方を見ていくという心理検査なのですが、週に一度ブックレポートの課題がありました。英語文献含め、1年生のうちから本や論文をたくさん読まなければならないことは心理士の先生から聞いていたのですが、それ以外は講義形式で話を聞くことばかりだと思っていたので、能動的に取り組む課題の多さに驚きました。

でも、本を読んでいく中で、人の見え方がガラッと変わった瞬間があったんです。そこから私が抱いていた心理学や心理士に対するイメージも変わっていくのを感じました。見え方が変わったからといって急に何かが大きく変わることはないのかもしれませんが、自分の中で小さな変化が起きているのを感じる瞬間はあるんです。例えば、すごく怒っている人を見たとき。以前なら「嫌だな」「近づきたくないな」と思っていましたが、心理学の勉強をするうちに、その人が置かれている状況や、その人の目に世界がどう映っているのかを考えるようになりました。こうやって人を知っていく過程が“人間を科学する”ということなのかもしれません。それに相手を1つの側面ではなく複数の側面から見ると、自分が過度にイライラすることも減るんですよね。

こういう気づきの瞬間があるから、勉強って面白いなと思います。先に挙げた授業以外にも、専門用語を必死に辞書で引きながら翻訳したり、この実験結果から何が言えるのか考えたり、初めての事だらけで大変な面もありましたが、臨床家を目指すうえでは不可欠の経験でした。

相手が誰でも、視点や立場の違いに敏感な心理士を目指して

心理学科の留学生たちから学ぶことも多いですね。日本語を母国語とする人にとっては比較的容易なことに、苦戦しながらも取り組んでいる。漢字の混ざった法律の文章を読める人もいるのですが、それを当たり前のように聞いていたら、教授に「君たちには英語で法律が読めますか?」と問いかけられてハッとしました。上智大学で学んでいると、このような日常の小さな違いに大きな衝撃を受けるようなことが本当に多いんです。そういう気づきを自分で感じ取れるようになるのは、心理士にとって必要なことだと思いますね。

1年生の必修科目や英語の授業では他の学部や学科の学生と交流し、専門が違えば考え方も違うことを肌で感じることができました。私が今履修している「教育相談」という授業でも、心理士ではなく教職員を目指す学生の視点から心理職というものを考えることが多くて新鮮です。視点が違うだけでも、同じ事柄に対する捉え方が違ったり、大切にしたいことや大切にしていることが違ったりするんですよね。この学びは、将来心理士として働き出したときに、立場や理論の違いを理解した上で話し合ったり、折り合いをつけたりする上でも役に立つと思います。

今、一番頑張っているのはボランティアサークルの活動ですね。外部の非営利団体と協力して、制度の狭間に落ちてしまった子どもたちの居場所づくりをしています。具体的には、学生スタッフとして子どもたちと遊んだり、宿題を一緒にしたり、夜ご飯を食べたりするのですが、コロナ前は、学生の分も含めて毎回10人前ぐらいの料理を作っていました。週に1回とはいえ、献立から自分たちで考えるのは大変でしたが、すごく楽しかったですね。でも、大事なのは、この子たちの目で世界を見ること。自分の中の“当たり前”を基準とせず、子どもたちと関わる上でも「その子が今どんなことを感じているか」を真剣に考えられる心理士になりたいと思っています。

※この記事の内容は、2021年11月時点のものです

上智大学 Sophia University