2022年11月5日、アジア人材養成研究センター創立25周年を記念して、第2回水利都市国際シンポジウム「カンボジア・アンコール王朝の水利都市とアンコール・ワット建立」が、オンライン(Zoomウェビナー)および対面で開催されました。
本シンポジウムは、アンコール・ワットの建立が可能であった当時の経済・社会を「水利都市」の命題のもとに検討する国際会議であり、2000年に第1回目の「水利都市」国際シンポジウムが上智大学で開催されました。今回は調査研究が深まった23年後の第2回目となり、アンコール遺跡に興味関心を持つ一般市民、専門家、そしてカンボジア、フランス、インドネシアなど海外からのオンライン参加者、約100名が視聴、また会場にも約30名が来場しました。アンコール王朝が首都としたアンコール地方は大扇状地であり、その傾斜地上部に貯水池を造り、乾季になって2回目の耕作(二毛作)をする「水利都市」が機能していました。今回は、現地調査を行ったフランス極東学院、NASA(アメリカ航空宇宙局)、アプサラ機構(カンボジア王国政府アンコール地域遺跡保存整備機構)、JICA,上智大学の調査研究チームが成果を発表しました。
登壇者は、Dr.ロランド・フレッチャー教授(シドニー大学/オーストラリア)、Dr.ドミニク・スーティフ教授(フランス極東学院/フランス)、 H.E. ハン・ペウ総裁(アプサラ機構/カンボジア)、日本からは坪井善明先生(早稲田大学名誉教授)、石澤良昭所長(上智大学アジア人材養成研究センター)でした。
まず、佐久間勤上智学院理事長の歓迎挨拶に引き続き、「カンボジア・アンコール王朝の水利都市とアンコール・ワット建立」というテーマのもと、坪井先生からこの「水利都市論を提起したB.P.グロリエ先生」、石澤所長から「JICA(国際協力機構)のコンピューターから約800年前の田越灌漑の畦道発見」と題して問題提起があり、巨大石造伽藍が造営できた当時のクメール人の民族エネルギーとその深い叡智を、「水利都市論」として議論する意義が解き明かされました。
次に「水利都市」の調査・研究報告として、ロランド教授から、NASAのLiDAR(ライダー)と呼ばれるレーザ波を航空機から照射して実施した、アンコール地方の地形図と考古学調査の詳細な報告がありました。ドミニク教授はアンコール碑文に刻銘された「水」に関わる古クメール語を解読してその史実を裏付けました。ハン・ペウ総裁は、約800年前の河川の改修工事跡から、現在の水路と遺跡保存に必要な水処理の問題を提起しました。最後に、坪井先生から、Dr.クリストファー・ポチエ教授(フランス極東学院/タイ・チェンマイ)から寄せられた「第1回水利都市国際シンポジュウムから22年経過した時点での考察」と題したメール・メッセージが披露されました。
質疑応答では、アンコ—ル王朝時代の水利システムの叡智を現在の気候変動問題に生かせないか、など活発な意見交換がなされました。
閉会にあたり、H.E.トウィー・リー駐日カンボジア大使から、閉会挨拶と現在進行中のアンコール・ワット西参道修復工事が、アプサラ機構と上智大学の協力により進んでいることに対して謝意がありました。石澤所長からは、今回のシンポジウムを通じて、約800年前の灌漑問題の考察(降水量と河川の状況など)から、現代の洪水、猛暑などを関連づけて検討していく新たな研究視座の提案があり、興味深い国際シンポジウムであったと総括し、4名の講演者に対して謝意を述べました。
本シンポジウムの模様は、今後、プロシーディングス「水利都市研究」として取り纏め、当センター紀要『カンボジアの文化復興』34号(特集号)で公表する予定です。また、本シンポジウムの参考文献として、上智大学出版(SUP)から『アンコール王朝水利都市』を2023年2月に刊行予定です。