大きく変貌を遂げていくアメリカ政治外交。混迷の時代を読み解くには?

現代アメリカ政治外交が専門の総合グローバル学部の前嶋和弘教授。選挙の計量分析や、政治とメディアの動向の調査、政治運動参加者や外交関係者への聞き取りなどから、現代アメリカ外交を幅広い視点で研究しています。アメリカで急速に進行する分極化とは?

アメリカ国民の間で今、分極化が急速な勢いで進んでいます。保守派とリベラル派の分極化がかつてないほど深刻化し、世論が二分されつつあるのです。選挙から議会運営、外交政策、さらにはメディアも大きくこの分極化によって揺れています。

例えば、政治はメディアを自らの主張を広める担い手として、メディアは政治を情報源として、それぞれを必要としています。その点、一般に政治とメディアは深い関係にありますが、アメリカの場合、両者の依存度が極めて高い。共生関係にあると言ってもいいくらいです。

しかし、アメリカのメディアも、世論の分断に合わせて分極化が進んできました。本来なら真実は一つしかないはずですが、保守系メディアは保守派に、リベラル系メディアはリベラル派にそれぞれの政治情報を提供しているので、真実にたどり着くのが難しくなっています。保守派の人たちは保守系のメディアしか見ていなく、リベラル派の人たちもリベラル系のメディアしか見ていない。英語で”Rashomon syndrome”という言葉があります。Rashomonとは黒澤明の映画『羅生門』のことです。映画の方は芥川龍之介の『羅生門』だけでなく『藪の中』も含めたストーリーです。一つの殺人事件を巡って目撃者や当事者の証言がそれぞれ矛盾して真相に至らないまま終わる物語です。まさにこの言葉のような政治言説が現在のアメリカにはあります。

泊まり込みの当事者調査で分極化を探る

私の研究は、研究者の初期には主に計量的な観点から選挙や議会の分析を行ってきました。アメリカの大学院でアメリカ政治を学ぶというのは、政治科学的な側面からの研究に没頭することを意味しています。

ただ、日本に戻り、次第に当事者へのインタビューや非参与観察などの質的な研究にも力を入れるようになりました。2009年から広がっている保守側のティーパーティー運動を調査するため、発生当初から参加者に話を聞いたり、関係団体の支部に行ってインタビューしたりしました。

2011年のリベラル派のウォール街などの占拠運動では、参加者たちはウォール街の公園に寝袋やテントを持ち込んで「占拠」したのですが、私自身もそこに一緒に泊まり込みながら、お話を伺いました。

双方の運動の調査を通して、いろいろ考えさせられたことがあります。それは全く異なる運動であるのに、「私たちが多数派なのに、ごく一握りの少数のエリートが社会を牛耳っている」「苦しんでいる人々の声を聴け」という主張が両者の根本にあったことです。それだけアメリカ国内での格差が広がり、社会や政治に対する不満が高まっていることに震えのような強い共感を覚えました。

アメリカ現代政治に向き合う次世代の研究者を育てたい

研究者として論文を書いたり、学会で発表したりする一方、学生の教育、外交関係者との活動、一般の方を対象にしたアメリカ政治の解説にも取り組んでいます。それぞれ役割は違うものの、深いところではつながっていると感じます。2022年6月からアメリカ学会会長に就きました。今後は次世代の研究者の育成にも力を入れたいですね。

この一冊

『新版・アメリカを知る事典』
(荒このみ他/著 平凡社 2012年 ※写真は旧版)

学生時代いつも鞄に携帯していました。事典なのに無味乾燥ではなく、各項目が有機的に繋がっています。こんなに面白いことがあるのかと引き込まれ、アメリカ研究の道を目指しました。事典なので大きいのですが、当時はそれが気にならなかったですね。

前嶋 和弘

  • 総合グローバル学部総合グローバル学科
    教授

上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程、メリーランド大学政治学部博士課程。Ph.D(Government and Politics)。文教大学などを経て2014年から現職。

総合グローバル学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University