新たな史料の発見から、近世ヨーロッパの演劇作品を探究する

文学部フランス文学科
教授
ミカエル・デプレ

近世ヨーロッパの演劇作品を中心に、ヨーロッパ文学史を専門とする文学部のミカエル・デプレ教授。公文書館での調査から新たな史料を発掘し、それまで未発見だった劇作品やその原稿、上演などに光を当てています。さらに、初期イエズス会の学校教育と今日の教育の興味深い類似点も指摘しています。

私の専門はヨーロッパ文学史で、特に近世ヨーロッパの演劇作品について研究しています。文学研究には主に二つの手法があり、一つは作品の読解や分析、実演、もう一つは公文書館に保管されている史料の調査です。公文書館での調査には多大な労力と時間を費やしますが、新たな史料の発見につながり、何百年も埋もれていた文書から新しい要素を浮かび上がらせることができます。これは確固たる根拠を示し、厳密な論考を組み立てうる唯一の方法です。心躍る新発見をもたらす科学実験にも似たこの史料研究に、私は魅力を感じています。

新たな演劇作品を発見し、その原稿を精査するべく、私はヨーロッパ各地の公文書館を調べています。テクストの分析以外にも、劇作家、上演に関わった俳優たち、彼らの家族的背景や社会における地位、演技の訓練方法など、作品の背後にある物語も探究しています。

イエズス会が運営する学校長の書簡から、16世紀の校内生活をひもとく

私の研究対象の一つにイエズス会演劇があります。16世紀には、プロテスタントの学校と並んで、カトリック・イエズス会が運営する学校が最初に演劇を教育や宗教的目的のために活用し始めました。イエズス会演劇は大成功を収め、やがて学校から独立し、学外の舞台で上演されるまでになりました。さらに、イエズス会の影響力は演劇の域を超え、小説など、他の文学形態にも及んだのです。この状況は、エリート階級の子弟の大半がイエズス会学校で学んだフランス、ドイツ、スペイン、イタリアで顕著でした。

私のイエズス会演劇の研究は、ヨーロッパのカトリック圏で16世紀に設立された、最初のイエズス会学校の歴史と密接に結びついています。これらの学校には、多くのイエズス会士が学長として派遣されました。彼らがローマのイエズス会本部に書き送った書簡は、草創期における学校の発展と校内生活を伝える貴重な記録です。そこには学校運営のあらゆる側面が記されており、入学者数、カリキュラム、教員一覧と経歴、教員の心理的および学術的評価、宣教、さらには魔術のような話題まで出てきます。日本を含む非ヨーロッパ圏のイエズス会宣教師によって書かれた書簡も保管されていました。これらの文書から得られる豊富な情報は、ヨーロッパが激しい宗教的対立により混乱期にあった16世紀において、いかにイエズス会の教育制度が発展し、人々の考え方に影響を及ぼしたのかを知る手がかりとなります。

そして時には、これらの書簡や報告書から、初期のイエズス会学校で上演された演劇の詳細が明らかになることもあります。こうした演劇作品の多くは正式に公開されたことがないため、その背景を掘り起こす作業は困難を極めます。私の研究目的の一つは、最初にフランス、それからイタリア、スペインのイエズス会学校で演じられた、全作品の総覧を作成することです。

スコットランド貴族の手記が明かす、ヨーロッパ近代劇の起源

国際的な学際研究チームと共に、スコットランド貴族ウィリアム・ドラモンド・オブ・ホーソーンデンが残した手記の発表にも取り組んでいます。ドラモンドは法律を学ぶため1607年にフランスへ渡り、小さな大学の街ブールジュに滞在中、好んで観劇に出かけては鑑賞したイエズス会演劇の内容を書き残しました。

これらの手記は、当時の演劇界に関する貴重な洞察を与えてくれるだけでなく、ヨーロッパにおける近代演劇の起源を解明する上で大きな助けになると考えられます。そこに記された劇作品自体が新たな発見であり、劇の内容はこの時代には珍しく写実的なものでした。テーマ性のある新しい演劇のダイナミックな特徴がはっきりと表れており、イタリア人の職業俳優からフランス近代劇における最初の女優たちまで、多様なバックグラウンドを持つ役者たちが演じていました。

私たち研究チームは、役者たちのライフストーリーを明らかにし、手記が書かれた時代背景を理解しながら、なぜ近代演劇が当時のフランスでそれほどまでに人気を博したのかを考察しています。この研究において、私はイエズス会演劇の導入と発展のほか、商業演劇やイタリア演劇に関する分野を担当しています。

16世紀のイエズス会教育と現在の教育の類似点

驚くべきことに、草創期および16世紀のイエズス会教育と現在の教育には、多くの類似点が認められます。16世紀半ばに最初の学校を設立してから約50年後、イエズス会はヨーロッパ各地の学校で蓄積されたさまざまな教育経験を総合し、文書にまとめました。この文書は合理的かつ包括的なもので、現在にも応用可能な考え抜かれた教育の基礎を提示しています。

イエズス会学校で重視された主な要素には、暗誦、宿題、リーダーを立てたグループワーク、グループ間での競争、学生と教員双方の評価、パブリックスピーキング能力の育成などがあります。50年に及ぶ献身的な取り組みを通じて、イエズス会は教育的試みを豊富に重ねながら、卓越した人材管理の技術と人間心理の理解を深めていきました。これらの見識や手法は、現在の教育にも通じるものです。私は16世紀のイエズス会の文書を研究することで、教育の発展や今日の大学教育における文学の役割に、より一層貢献していきたいと思っています。

この一冊

『Litterae Quadrimestres ex Universis, Praeter Indiam et Brasiliam』
(ヨーロッパ地域イエズス会学校長ほか/著 Augustinus Avrial)

この本は、私の現在の研究対象です。19世紀に出版されたもので、ヨーロッパ各地のイエズス会学校長や日本を含む非欧州圏の宣教師たちによって、1541~1560年の間に書かれた書簡が収録されています。これらの書簡は、当時の学校運営の全体像を示すだけでなく、イエズス会教育がヨーロッパ社会にもたらした、現在にも続く重要な影響を裏付ける証拠でもあります。

ミカエル・デプレ

  • 文学部フランス文学科
    教授

1999年オックスフォード大学にて修士(哲学)、2005年パリ・ナンテール大学にて博士(演劇学)取得。オックスフォード大学ウルフソン・カレッジに勤めたのち、2001年に上智大学着任。主な研究分野はイエズス会教育と近世ヨーロッパ演劇史。演劇のさまざまな側面(役者の経歴、旅回り劇団、上演場所、劇団生活の金銭的・物質的側面、演劇テクストの伝達や朗読)のほか、演劇と法律、政治的権力、宗教的権威の間の関係に特に関心を持つ。

フランス文学科

※この記事の内容は、2023年5月時点のものです

上智大学 Sophia University