AI時代における高等教育の未来を展望するシンポジウムを開催しました

7月9日、AI時代における高等教育の役割と「深い学び」をテーマにシンポジウムを開催しました。本シンポジウムは、2021年から杉村美紀上智大学長を研究代表として進められてきた「高等教育における学修成果の可視化に関する国際共同研究」プロジェクトの成果発表の場として実施。生成AIの急速な普及により、情報検索や分析手法、レポートや論文作成など、これまで学生自身が行ってきた学習・研究活動のあり方が大きく変化しています。また教員側にも、学修課程や学びのプロセスを支援するうえで様々な工夫が求められるようになってきました。高等教育が改めてその意義を問われるなか、大学に求められる学びのあり方を議論し、上智大学が推進する「深い学び」の意義と課題について考えることを目的としています。

冒頭挨拶で杉村学長は、国際性と多様性を大切にする上智大学では、「深い学び」を実現する教育の推進に力を注いでいると紹介しました。また、AIの発展によって高等教育の根幹に関わる問いが投げかけられていると述べ、AIをめぐる課題は現代社会における重要な挑戦の一つであると指摘。そして、「本シンポジウムが、この課題への理解を深め、対話を前進させる機会となることを願っている」と参加者に呼びかけました。

基調講演では、経済協力開発機構(OECD)教育研究革新副センター長のステファン・ヴィンセント=ランクリン氏が登壇。OECDが2019年から2023年まで展開した国際プロジェクト「高等教育における学生の創造的で批判的な思考のスキル」、ならびに「OECD デジタル教育アウトルック 2026:教育における生成AIの効果的な活用を探る」を軸に、AIが知識の検索や文章作成を容易にする時代だからこそ、人間には「アイデアを生み出す力(創造性)」と「そのアイデアを吟味する力(批判的思考力)」がより重要になると示しました。事例を挙げながら、学習成果は教育設計によって大きく左右されると説明し、AIを前提とした新たな学習環境の設計の必要性を訴えました。

続いて、本学特任教授で英オックスフォード大学名誉教授の苅谷剛彦氏は、日本の高等教育の構造的課題を社会学の視点から示唆。AIの登場によって「知識を教えること」を中心としてきた従来の大学教育の限界がより明確になったと述べ、現状のコンピテンシー(能力)育成やアクティブ・ラーニングに関する教育改革の実現を阻む構造的な問題について指摘しました。今後は教育だけでなく、大学で培った能力が直接評価されにくい日本の雇用システムや、依然と講義形式を好む学生の意識改革も含めた変化が必要であると論じました。

本学理工学部情報理工学科の田村恭久教授は、指定討論にてヴィンセン=ランクラン氏が指摘した「AIを用いて課題を遂行すること(成果物)」と「そこから学ぶこと(理解)」の違いと、苅谷教授が論じた日本の大学教育における正答重視の構造を、AIが人間の思考や作業の一部を代替する「認知的オフローディング(思考の外部化)」という概念で結び付けました。その上で、AI時代には成果物だけでなく、学習プロセスを重視した教育と評価のあり方がより重要になると指摘しました。

後半のパネルディスカッションでは、ファシリテーターに杉村学長、そして本学文学部英文学科の池田真教授が加わりました。池田教授は本学学務担当副学長として、次年度予定しているカリキュラムの見直しを先導しており、学内における深い学びを推進しています。池田教授は、これまでの議論を受けて、「真正性(Authenticity)」を重視する教育への転換が必要であると指摘。AIにはできない人間の強みとして、「認識(Awareness)」「主体性(Agency)」「行動(Action)」「共感(Affection)」を挙げるとともに、学生同士の議論や協働の過程を評価する真正な評価の重要性を強調しました。

その後、「学習プロセスの評価方法」「実現可能性とコスト」「AI活用の可能性」等、多様なテーマで議論が繰り広げられました。さらに、会場とオンライン参加者からも多くの質問が寄せられ、登壇者らは一つひとつ丁寧に回答しました。

シンポジウムでは、AIの発展によって高等教育のあり方が大きく変化する一方で、「創造性」「批判的思考力」「他者との対話」など、人間にしか育めない力の重要性が一層高まっていることが共有されました。AIを活用しながらも、人間ならではの学びをどのように実現するのか。参加者にとって、これからの高等教育を考える貴重な機会となりました。

上智大学 Sophia University