地球に優しいイオン液体から次世代の蓄電池や医療分野の材料を生み出す

地球環境に優しい化学材料として注目されているイオン液体。これを使って、次世代の蓄電池や、セルロースを使った材料の開発をしている理工学部の藤田正博教授。研究の意義や魅力について語っています。

近年、化学材料の世界で話題になっているイオン液体という化合物があります。陽イオンと陰イオンのみから構成された液体であり、イオン同士の相互作用力が強いため加熱しても蒸発しないなど、既存の溶媒にはない特徴を持ちます。私の研究はこのイオン液体を使って、地球環境に貢献できる新しい材料を開発すること。

現在、スマートフォンやパソコンなどに使われる蓄電池の新しい材料や、竹に多く含まれる天然繊維のセルロースを溶解する溶液の開発、さらに抽出したセルロースから医療分野の材料を作る研究などに取り組んでいます。

蓄電池とセルロース、2つは全く異なる分野のものです。しかし、なぜこの全く異なる2つの分野にイオン液体が使えるのかというと、イオン液体が有機イオンで構成されているため、目的に合った分子設計をして、合成できるためです。この特徴を利用すれば、自分の作りたいさまざまな種類の液体化合物をデザインすることができる。目的に応じた機能を持つ液体を作ることができるのです。欧米の研究者は、このような特徴から、イオン液体をマイ・ソルベントやデザイナーズ・ソルベントとも呼んでいます。

イオン液体のデザインは有機化学の知識があれば誰にでも作れますが、研究につながるかどうかは世の中のニーズ次第。つまり、必要とされているもの、従来の問題を解決できるものを常に考えながら、分子構造を考えることが大事です。

発火事故対策として期待されるイオン液体の蓄電池

蓄電池の場合、現在普及しているリチウムイオン電池の電解液には石油系の溶剤が含まれています。つまり、燃えやすいのでスマートフォンやパソコンなどの発火事故につながっています。このため、発火しにくい安全な畜電池が求められており、イオン液体を使った電池が期待されているのです。イオン液体は揮発性の溶媒を使わず、そのまま電解質として使うことができます。また、液体でありながら蒸発しないので、発火しませんし、繰り返し使える点も大きなメリットでしょう。

竹のセルロースをイオン液体で溶かすことを思いついたのは、ある研究者から、竹害(ちくがい)の話を聞いたことがきっかけです。竹害とは、かつてタケノコを採るために栽培されていた成長の早い竹が雑草のように増殖し、周囲の生態系を変えてしまうこと。竹は水分の保水力が他の樹木に比べて低いため、雨水をためられず、竹林の土壌はがけ崩れが起きやすいことも問題となっています。この竹を使い、ニーズの高い化学材料を作ることができれば竹をどんどん使えるので竹害対策となり、さらに持続可能な社会に貢献することもできます。

思い通りの化合物ができた瞬間はガッツポーズ

この研究をしていて一番楽しいのは、やはり、イオン液体から新しい液体化合物を作るプロセスです。「これが完成したら、あの困り事が解決できるかもしれないな」などと考えながら作業をしています。実験室で実際の化合物を作る過程では、試作を何度も繰り返すのですが、自分の思い通りに完成したときは、思わず、ガッツポーズが出ます。

今後は現在の研究をさらに進め、実用化できるものを世の中に提案していきたい。とくに同じ分野の研究者が競っている蓄電池は、液漏れの問題など課題を解決し、クオリティを高めていきたいですね。いずれは日本発の新しい蓄電池の実現につなげられたらと思っています。

この一冊

『導電性高分子』
(緒方直哉/著 講談社)

大学院に入る時に研究室の先輩から「この本はあなたの研究に必要なバイブルだから」といわれ、購入しました。国内外の著名な研究者に会うと、この本にサインをしてもらうのが常となり表紙の裏はサインだらけ。もはや本の存在を超え、宝物となっています。

藤田 正博

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

東京農工大学工学部物質生物工学科卒、同大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。東京農工大学博士研究員、Monash大学博士研究員、上智大学理工学部物質生命理工学科准教授などを経て、2019年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University