電子廃棄物の削減と金属資源の回収に大きく貢献

本研究の要点

  • マイクロ波を用いることで電源ケーブルを迅速に熱分解しリサイクルできることを実証。
  • マイクロ波による熱分解挙動や生成物を細かく調査。
  • ケーブルの長さと分解効率の相関性を明らかにし、長いケーブルも切断することなく分解できることを実証。
  • 分解時に毒性の強い生成物が発生せず、安全かつ簡便な手法であることを示唆。
  • 世界的な課題である電子廃棄物のリサイクル、資源回収への応用に期待。

本研究の概要

上智大学 理工学部 物質生命理工学科の堀越 智教授らの研究グループは、電源ケーブル(VVFケーブル, ※1)にマイクロ波(※2)を照射することで被覆材の熱分解が可能であることを明確にし、その挙動を細かく調査しました。その結果、電源ケーブルを迅速かつ効率よく分解できる手法の開発に成功しました。また、熱分解時に人体に有害な生成物が発生することなく、傷や変形のない銅線が回収できることを実証しました。

e-Waste(電子廃棄物)は環境汚染や資源の浪費などの面で世界的に深刻な課題となっています。先進国で使い古された電子機器は発展途上国に大量に輸出され、その多くは再利用されずにe-Wasteとして扱われます。これらの廃棄物は、現地で処理され、金属資源などの回収が行われています。

しかしながら、不適切な分解処理によって発生する有害物質が土壌や水を汚染し、労働者や近隣住民の健康に深刻な影響を及ぼしています。また、多くのe-Wasteは複合材料で構成されており、その再資源化には多くの手間がかかることが課題の一因となっています。これらの課題を解決するために、本研究グループはe-Wasteの中でも再利用価値が特に高いVVFケーブルを対象に、マイクロ波を用いた熱分解技術の開発を行いました。

さまざまな長さのVVFケーブル(1cm, 3cm, 6cm, 9cm, 12cm, 18cm)にマイクロ波を照射したところ、大気圧下では3cm, 9cm, 18cmのケーブルで分解が起こりやすいことがわかりました。これらの結果は、ケーブルの熱分解反応がマイクロ波の波長とケーブルの長さによって影響を受けることを示唆しています。

一方、減圧下では、放電による熱分解が起こりやすいため、6cmや12cmのケーブルも分解できることがわかりました。また、熱分解時に生成する物質を調べたところ、主に直鎖アルコールで、毒性の高い分解生成物が発生しないことがわかり、本手法の安全性が実証されました。実際に、螺旋状に巻かれた54cmのケーブルに対し、大気圧窒素下で300Wのマイクロ波を照射したところ、分解開始から12分後には損傷の無い銅線を回収できることが明らかとなり、本手法の効率性と迅速性が確認されました。

本研究は、電子レンジにも使用されるマイクロ波の特性を活かし、誰でも簡便かつ迅速に資源回収が可能であると点で非常に有用です。また、毒性の高い生成物が発生せず、分解を行う人々やその周囲の安全性が確保される点が大きな利点であり、実用性のある手法といえます。さらに、金属の回収や炭素はCO2になることなく炭素材料に変化することからサーキュラーエコノミーに適した手法と言え、環境負荷を低減する持続可能な技術として、重要な意義を持つと考えられます。

本研究成果は、2024年9月20日に国際学術誌「RSC Advances」にオンライン掲載されました。

VVFケーブルへのマイクロ波照射と分解後に回収した銅線

研究の背景

e-Waste(電子廃棄物)とは、使用済みや故障によって廃棄処分される電気・電子機器のことを指します。例えば、スマートフォン、パソコン、テレビ、冷蔵庫などの家庭用の電化製品に加え、業務用の電子機器も含まれます。近年の電子機器の普及に伴い、e-Wasteの量も増加し、その発生と管理に関する懸念が高まっています。

2022年には全世界で6200万トンものe-Wasteが発生し、2030年には約8200万トンに達すると予測されており、世界的な課題となっています。e-Wasteの多くは先進国から発展途上国に輸出され、現地で不適切な処理方法による分解と資源回収が行われています。その結果、電子機器に含まれる有害物質が流出し、その地域の環境汚染や住民の健康被害が深刻化しています。

EUでは、スマートフォンの充電ケーブルをUSB-Cに統一する法規制が進められるなど、e-Waste削減に向けた取り組みが徐々に進行していますが、これだけでは膨大な量のe-Wasteを削減するには不十分です。そこで、本研究グループはe-Wasteの中でも再利用価値が特に高いVVFケーブルを対象として、マイクロ波を用いた熱分解技術に関する検討を行い、簡便かつ迅速にe-Wasteを分解できる手法の確立を目指して研究を進めてきました。

研究結果の詳細

 1. VVFケーブルの長さとマイクロ波熱分解挙動の相関性

長さの異なるVVFケーブル(1cm, 3cm, 6cm, 9cm, 12cm, 18cm)に対して、大気圧下で2.45GHzのマイクロ波を照射し、その熱分解挙動を細かく調査しました。ケーブルの長さがマイクロ波の波長(12.24cm)よりも短い場合(1cm, 3cm, 6cm, 9cm, 12cm)、3cmと9cmのケーブルで熱分解が顕著に起こることがわかりました。これらの長さは、照射したマイクロ波の波長の1/4(3.06cm)と3/4(9.18cm)に相当し、これらの銅線がマイクロ波の受信アンテナとして機能することで、放電と熱分解が生じたと考えられます。

一方、ケーブルの長さがマイクロ波の波長(12.24cm)よりも長い場合(18cm)、長さに関係なく熱分解が生じました。100Wでは、ケーブルの被覆が全体的に軟化して炭化し、200Wでは、ケーブルの被覆が局所的に加熱され、熔解や炭化をすることがわかりました。長いケーブルでもマイクロ波による熱分解が可能であるため、ケーブルを事前に小さく切断するなどの前処理が不要になり、より簡便なプロセスで資源回収が可能であることが示唆されました。また、減圧下では放電による熱分解が起こりやすいため、6cmや12cmのケーブルでも分解可能であることが明らかとなりました。

 2.マイクロ波熱分解時の生成物に関する調査

9cmに切断したVVFケーブルを300Wのマイクロ波で熱分解し、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC- MS, ※3)により、生じた生成物を調査しました。その結果、マイクロ波照射と共に被覆材の急速な脱塩素化が始まり、次にポリマー鎖が分解され、少量の2-ヘキセナール、3-メチル-1-ヘキサノール、6-メチルヘプタノール、1-ノナノールなどの物質が生成することが確認されました。また、熱分解途中のケーブルの変色した部分を分析したところ、6-メチルヘプタノール、1-ノナノール、7-メチル-1-ウンデセン、1-クロロウンデカンなどが確認されました。

従来の熱分解法では、タール状物質、多環芳香族化合物、ダイオキシンなどの人体に有害な物質が発生するのに対し、本手法では主に直鎖アルコールが生成し、これらも最終的にはCO2ではなく固体炭素になることが確認され、安全な手法であることが示唆されました。

 3.VVFケーブル内の銅線の回収

今回開発したマイクロ波による熱分解法によって、実際にVFFケーブル内の銅線の回収が可能かどうかを評価しました。螺旋状に巻かれた54cmのVVFケーブルをガラス反応器に入れ、常圧の窒素下で300Wのマイクロ波を照射しました。熱分解を開始するとすぐに白煙が発生し、被覆材が熔け始めました。4分ほどで被覆材のほとんどが熔け、さらに炭化し、12分後には炭化した被覆材が銅線から剥がれ落ち、最終的にきれいな銅線が残りました。

本研究を主導した堀越教授は、「この研究結果は、SDGsの目標12 『つくる責任・つかう責任』を実行するための新しい技術的手法を提供します。誰もが簡単かつ無害な方法でe-Wasteを処理できると同時に、処理された廃棄物に新たな価値が付加されることで、経済的な恩恵も享受できるため、e-Wasteに対する認識も変化していくと考えています。これにより、誰もが安心して暮らせる社会の実現が期待されます」と、コメントしています。

用語

※1 VVFケーブル: 住宅や建物の電気配線に使用されるケーブル。銅、アルミニウム、真鍮などの導体、ポリ塩化ビニルなどの絶縁体から構成されている。

※2 マイクロ波: 電磁波の一種。電子レンジをはじめ、衛星放送、気象レーダー、GPSなどの測位システムにも応用されている。

※3 ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS): 試料から発生した混合気体をカラム内の移動度の差を利用して分離した後、それぞれをイオン化して質量を分析する方法。

論文名および筆者

媒体名

RSC Advances

論文名

Recycling of e-waste power cables using microwave-induced pyrolysis – process characteristics and facile recovery of copper metal

オンライン版URL

https://doi.org/10.1039/D4RA05602G

著者(共著)

Satoshi Horikoshi, Naoki Hachisuga and Nick Serpone


本リリース内容に関するお問合せ

上智大学 理工学部 物質生命理工学科

教授 堀越 智 (E-mail:horikoshi@sophia.ac.jp)

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上智大学 Sophia University