学校現場の先生方と一緒に、子どもが楽しく意欲的に学べる授業に取り組む

小・中学校の教育に教育心理学を応用し、学校現場とともに子どもの学習意欲を高める授業の実施に取り組んでいる総合人間科学部の奈須正裕教授。意欲につながる、知識を応用する力を育む授業と、文部科学省が推進する教育改革との関連とは?

心理学を応用し、効果的な教育の方法を探る学問である、教育心理学。私は教育心理学の中でも、学習意欲をテーマに研究をしており、主に小学校と中学校において、どのような授業をすれば子どもたちがやる気になってくれるかを考えてきました。学校におじゃまして先生方と一緒に教材を作り、授業を行うという、現場密着型のアクションリサーチという研究手法を使っています。これまでに協働研究を進めた学校は数百校。現在も継続して20校ほどの学校と関わっています。

研究者になるきっかけは、地元の大学に通いながら小学校の教員を目指していた時でした。教育実習で、「同級生と比べて授業が下手だ」と感じた私は、「もう少し勉強してから現場に立とう」と大学院で教育心理学を学ぶことにしたのです。そこで、感情と学習意欲の心理学的なメカニズムに興味を持ちました。

例えばテストでいい点数が取れなかった原因を、「能力がないからだ」と考えると落ち込んでしまいますが、「勉強のやり方が悪かったからではないか」となれば、次は頑張ろうと前向きになれる。このように、物事のとらえ方を変えることで感情のコントロールができること、その手法が教育現場で応用できることを知りました。私も1人の研究者として、子どもたちが元気になる授業を作りたいと思うようになったのです。

学習意欲の向上が、不登校の改善にもつながる

子どもの学習意欲を高めるには、ただ暗記をさせるのではなく、子ども自身が考える筋道を見通せるような指導が大事です。例えば、小学校の社会科の授業で地域の産業や特産物などを教える時。その地域にはどんな特徴があるのかを探るために必要な条件を整理し、子ども自身が自力で探究できるように教えます。具体的には、ある地域の降水量と気温をあらわすグラフや地形図、伝統や生活様式などです。

これらの条件を意識させながら授業を進めていくと、子どもはやがて、考えるために必要なグラフや地形図などの道具を駆使して探究できるようになり、知らない地域であっても、そこにどんな特徴があるのかを推察できるようになります。それが予想通りの結果だとだとうれしくなり、ますます授業が楽しくなる。教員の話を聞きながら、「次の課題はこうすればいい」とどんどん先回りできるようになるのです。

学習意欲を高める授業が不登校の改善につながることもわかりました。勉強が楽しくなると学校に行くのが楽しくなる。家庭の事情で親が朝起きられなくても、子どもが自分で朝食を食べ、登校するケースを目の当たりにしました。学校が一丸となってやったことで成果が出た。まさに教育のなせる技だと思います。

子どもの明るい未来のために必要な教育がある

わからないことはスマートフォンなどですぐに調べることができる今、先の社会科の授業のように、子どもたちは知識や情報の使い方を学ぶことが求められています。2020年度から実施されている新しい学習指導要領にも、この点が授業のポイントとして盛り込まれました。この教育改革が子どもたちの明るい未来につながることを期待しています。

今後は、ICTを活用した授業も研究テーマにしてみたいですね。小学生から高校生まで、1人1台のタブレット端末を持ち、教員と子どもたちが双方向で行う授業です。情報へのアクセスが自由にできれば、子どもは自分のペースや学習スタイルで学びを深めていくことができる。教材の開発も含めたよりよい学習法を検討できればと考えています。

この一冊

『人はいかに学ぶか』
(稲垣佳世子、波多野誼余夫/共著 中公新書)

1989年当時の心理学の考え方をベースに、人間は学びたい欲求を生まれつき持っていること、それを前提に教育や授業を考えることの大切さを提唱しています。読み継がれているのは今の時代にも十分通用する教育論だから。授業の教材にも使っています。

奈須 正裕

  • 総合人間科学部教育学科
    教授

徳島大学教育学部小学校教員養成課程卒、東京大学教育学研究科博士後期課程終了。博士(教育学)。国立教育研究所室長、立教大学文学部教授などを経て、2005年より現職。

教育学科

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University