ロケットエンジンの改良につながる超音速燃焼を追い求めて

理工学部機能創造理工学科
准教授
エディータ・ジェミンスカ

燃焼工学と流体力学を専門とする理工学部のエディータ・ジェミンスカ准教授は、宇宙ロケット開発に欠かせない最新の燃焼技術などを研究しています。災害からの復興に貢献できるものを、との想いからドローン(UAV)設計にも挑んでいます。

私の専門分野である燃焼工学や流体力学において、航空や宇宙飛行の安全技術の向上は非常に重要な学問領域です。現在取り組んでいる研究テーマは、航空機の設計、衝撃波(超音速の移動)、回転デトネーションエンジンなどです。四谷キャンパスの図書館裏にある地下の実験室で、試行錯誤を重ねながらさまざまな実験を行っています。

燃料となるもの、例えば木材やガソリン、水素などを燃焼させれば、その燃料の消費速度を特定することができます。燃焼プロセスが局所音速よりも速い、高速燃焼を想像してみてください。この現象は超音速燃焼と呼ばれ、火炎ではなく爆轟波が形成されます。水素を例にとると、このプロセスを制御することで高度な新型ロケットエンジンを作ることができます。現在、私の実験室では、毎秒2000m近い速度で燃焼が起こる回転デトネーションエンジン(RDE)を用いた実験を遂行しています。

実験では、特殊な自由ピストン型衝撃波管を用いて、二酸化炭素、窒素、アルゴンを含む火星などの大気を再現します。次に衝撃波を発生させて、これらの化合物にどのような変化が起こるかを観察します。この研究は、惑星の大気圏に突入して極端な力に耐えなければならない宇宙飛行の分野での技術開発に貢献するものです。

また、強力で効率の良い新型宇宙ロケットエンジンの開発に不可欠な回転デトネーションエンジンの研究にも挑戦しています。

福島復興に役立つドローン開発にも挑戦

2021年に、研究室の学生たちが初めてドローンを設計しました。きっかけは、2011年東日本大震災の原発事故で大きな被害を受けた福島の復興に貢献できるものを作りたい、という学生たちの想いでした。ガンマ線センサーなどのデータ収集機能をドローンに搭載するために、懸命に実験に取り組んでいます。完成した暁には、初飛行は福島上空で行いたいと考えています。

ドローンが災害現場などで充分に活躍できるようにするには、長距離飛行を実現する必要があります。私たちの実験室では、離陸の際の空気抵抗を低減するBox翼を採用しています。スーパーコンピュータを使ってさまざまな性能パラメータを計算し、そのデータに基づいて設計を進めています。

モーフィング翼の研究もかなり前から取り組んでいます。現在の飛行機は、離着陸や水平飛行の動きに応じて翼のフラップを開閉し、角度を調整するようになっています。モーフィング技術では、柔軟な素材を使って、鳥の翼のように自由自在に曲げ伸ばしできる翼を作ることができます。抵抗を減らし、揚力を向上することで、飛行効率の向上にもつながります。

日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がこの技術の開発に取り組んでおり、数年前にはモーフィング技術研究会も発足しました。私たちは航空機の性能について研究していますが、素材開発や関連分野の研究者たちと意見交換や情報交換をできる場は、とても貴重です。

実験室の外でのネットワークは不可欠

研究では、実験室での実験も重要ですが、他の研究者とつながるためのコミュニケーションも欠かせません。新技術の開発において、他の実験室や大学、研究機関との協力は不可欠ですし、学会や国際会議では、研究者の間で活発な情報交換が行われています。コミュニケーションを重ねることは、新しい着想を得たり、グローバルな問題を理解したりするための基盤となります。私自身にとっても、豊富な経験を持つ国内外の企業や研究機関、他大学からのアドバイスやサポートは非常に有益で、開発のスピードアップにもつながっています。

工学分野では、世界中の人とのコミュニケーションが不可欠ですから、エンジニアにとって英語は必須です。理工学部でも英語はしっかり勉強するように、と学生たちに話しています。世界中の実験室や研究者たちの努力が結集し、新しい技術が発展していく。そんなグローバルな科学技術の発展に、少しでも貢献できるような研究を目指しています。

この一冊

『Endurance: A Year in Space, a Lifetime of Discovery』
(スコット・ケリー/著 アルフレッド・エー・クノッフ社)

映画「トップガン」を見て戦闘機パイロットに憧れました。現在も宇宙飛行士になる夢をあきらめきれず、国際宇宙ステーションに1年滞在した著者の話に夢中になりました。努力すれば宇宙飛行士にだってなれる、と勇気をもらいます。

エディータ・ジェミンスカ

  • 理工学部機能創造理工学科
    准教授

ワルシャワ工科大学にて学士(工学)、修士(工学)、青山学院大学にて博士号を取得。2013から2014年に青山学院大学客員研究員、2014年から上智大学助教授を経て、2019年より現職。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University