1月25日(土)、本学四谷キャンパスの10号館講堂において、本学と国際基督教大学(ICU)との共催で、国際シンポジウム「高等教育における学修評価:アメリカと日本における批判的思考力と創造力の教育実践」を開催しました。当日は大学・高校関係者、大学生、高校生など約200人が参加しました。
現在、高等教育における学修評価は重要な課題としてクローズアップされており、我が国の高等教育のビジョン「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」にも「個々人の学修の達成状況の可視化」が課題として提示されています。
経済協力開発機構(OECD)は、高等教育で生み出すべきスキルの領域として、これまでの専門的なスキルに加え、批判的思考力、創造力、自信、情熱、リーダーシップ等の態度や社会的なスキルを挙げており、世界12カ国の高等教育機関とともに「高等教育における学生の創造的で批判的な思考のスキル」に関するプロジェクトを立ち上げています。本学とICUは、2018年5月に締結した「連携及び協力に関する包括協定」に基づき、同プロジェクトに合同で参加し、主に環境教育の分野で試験的に評価を実施しています。
本シンポジウムでは、同プロジェクトにおけるこれまでの成果や今後の課題を踏まえて、プロジェクトに携わっている教員による報告と討論を行いました。司会は、杉村美紀グローバル化推進担当副学長が務めました。
曄道佳明学長の冒頭挨拶に引き続き、ICUの西村幹子教授から、OECDプロジェクトの概要について説明がありました。西村教授によると、OECDのプロジェクトが始まった背景には、世界貿易機関(WTO)が高等教育とは国を超えて取引できる財であると位置付けたことで、各国が競って留学生を誘致し始めたことから、各国の高等教育機関の質保証に対する説明責任がより求められるようになった、とのことでした。
また、特に日米で比較した場合、両国とも大学進学率が50%を超え、多様な学生が集まるようになったことから、学修評価についても多様性が求められていると説明しました。
さらに、実社会でのイノベーションに必要なスキルとして学生が身に付ける能力として、批判的思考力(Critical Thinking)と創造力(Creativity)が話題となっていますが、その能力を伸ばすにはどのような教育学的手法が有効なのか研究が進められており、学修成果を評価する「ルーブリック」と合わせて、現在の研究状況の概要が紹介されました。
続いて、米国フラミンガム州立大学のマーク・ニコラス博士による基調講演がありました。ニコラス氏は、米国において、国レベルの学修評価のタスクフォースで指導的な役割を担っています。また、高等教育における学修過程と成果としての批判的思考力を研究分野とするほか、ファカルティ・ディベロップメント、高等教育におけるアカウンタビリティなど、高等教育において幅広く活動しています。
ニコラス氏は、「Educated Person」とはどのような人間かについて考察し、米国では大学卒業後、実社会で多くの人に批判的思考力が欠けていると分析されている研究があることを紹介するとともに、必要とされるスキルやその評価が、産業界と教育において異なる状況があることを踏まえた上で、学修評価について、評価の定義や用語を統一する、課題設定を大学間で共通にする、評価者の質を統一するための訓練を行うなど、「共通の言葉」を作ることが必要であると指摘しました。また、評価の共通化により、海外からの留学生をより多く呼び込むことができると述べました。さらに、評価に必要な複数の要素を考察し、評価手法をデザインし、経験するまでを通じて、メソッドを常に改善し続ける必要があると述べました。
後半は、本学およびICUの両大学における取組の紹介から始まりました。
本学総合人間科学部教育学科の小松太郎教授は、多文化共生社会をテーマに、教育学科の学生約100人を対象とした授業での学修評価について報告しました。小松教授は、複数の教員が関わる中で、教員間の認識の共有化が重要であり、管理しやすいルーブリックの作成が求められると述べました。
次に、本学グローバル教育センターの杉浦未希子准教授は、文部科学省2013年度採択「大学の世界展開力強化事業」のプログラム(財政支援期間が終了した2018年度以降も継続)において、新たにCOIL(Collaborative Online International Learning(オンライン国際交流学習))を導入した試みについて、その内容と参加学生の学修評価について報告し、マルチタスクで参加型の、分野横断的なテーマ設定の授業の中でその変化をみるための知見と課題を共有しました。今後は、OECDの学修評価をどのように応用可能なものにしていくのか精査が必要になると指摘しました。
小松 太郎 教授
杉浦 未希子 准教授
ICUからは、教養学部アーツ・サイエンス学科の布柴達男教授と藤沼良典准教授から、環境問題をテーマにした授業について発表がありました。この授業では、5、6人のグループで学生自身が環境問題についてキャンパス内でできることを提案し、ポスターセッションで発表するスタイルを取っています。
環境問題はクリティカル・シンキングを行う上で適切な教材であり、様々な問題を自分のこととして捉え、解決に向けて行動することが将来社会に出てから創造的に考え意見を発することにつながるとしています。また、思考を習慣化するために振り返りが重要であると指摘しました。
布柴 達男 教授
藤沼 良典 准教授
続いて、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。登壇者からは、批判的思考力や創造性を養うための教育方法、これからの学生評価方法、評価する教員側の意識改革や協業体制などについて、さまざまな意見や提案がなされました。
最後に、ICUの日比谷潤子学長から、学修評価に対する今後の課題を挙げながら閉会の挨拶を行い、本シンポジウムを締めくくりました。