言語教育研究センターの金アラン准教授の専門は日本語と韓国語の対照言語学。実際の会話はもちろん、ドラマや映画、テレビショッピング番組を分析し、日本語と韓国語それぞれの敬語表現について研究しています。
私の専門は対照言語学で、日本語と韓国語の敬語について研究しています。さまざまな言語の中で、日本語と韓国語は基本語順や格助詞の存在など、共通点が多いと言われていますが、敬語の体系を有していることも大きな共通点の一つです。しかし、同じ敬語でも細部を見てみると、相違点も多い。
例えば、日本語も韓国語も行為の主体・客体・聞き手のうち、誰を敬うかによって異なる形態を用いる点では同じです。「先生が本をお読みになった」は主体を敬うもの、「先生に本をさしあげる」は行為が及ぶ対象(客体)を敬うもの、「この本、読みましたか」は聞き手を敬うものなのですが、敬う対象が誰なのかによって用いる形態が異なります。しかし、行為の主体に対する尊敬形は韓国語より日本語の方が多く、日本語は「お~になる(例:お読みになりますか)」「~られる(例:読まれますか)」「お~だ(例:お読みですか)」のように複数の形式があるのに対し、韓国語の尊敬形は‘-시(si)-’のみ。一方、聞き手を高める際に用いる形態は日本語より韓国語の方が多く存在します。
日本語にも韓国語にも見られる敬語の変化
敬語の使い方は時代によって変化します。最近は、より丁寧に表現したいという心理から敬語の過度な使い方が日韓語ともに観察されています。例えば、日本語では「おっしゃる」に「られる」をつけた「おっしゃられる」のような二重敬語がよく使われます。先ほど述べた通り、行為の主体を敬う際に用いる形式が日本語には複数あるため、このような二重敬語を作ることが可能なわけです。韓国語には主体敬語が‘-시(si)-’しかないため、「おっしゃられる」のような二重敬語を作ることができませんが、最近ではこの主体敬語の‘-시(si)-’を聞き手に対して用いる場合があります。例えば、カフェでお客が注文したコーヒーを提供する際に、「コーヒーが出る」と表現するのですが、‘-시(si)-’を用いて「コーヒーが出られました」のように表現するのです。
このように、社会的状況や心の動きは似ていても、言語によって表現が違ってくる。これは一つの言語だけ見ていても分からない、対照言語学の面白いところだと思います。
研究データはネイティブによる実際の会話から収集する場合が多いのですが、さまざまな人間関係や場面が設定されているドラマや映画の台詞を分析する場合もあり、最近は発話が全体的に丁寧なテレビショッピング番組もデータとしています。
苦手意識から敬語の研究が始まった
私は韓国の大学の第1専攻で日本語、第2専攻で国語教育について学んだのちに、大学院から日本で対照言語学の研究を始めました。敬語を研究テーマにしたのは、「日本人と仲良くなりたいけれど無礼な人と思われたくない。だから敬語を使うけど、ずっと敬語で話すと距離感が縮まらない。どうすればいいのか」という苦手意識からでした。敬語が苦手だからこそ、深く知りたかった。言語学を研究するためには、言語が好きということも大切ですが、苦手意識やつまずいた経験が役立つかもしれません。そこから「これはなぜだろう」「これが知りたい」と言語について疑問や好奇心を持つことができれば、ほかの人の気がつかないところに着眼できて、新しい発見ができるのではないかと思います。
この一冊
『사랑 후에 오는 것들<愛のあとにくるもの>』
(공지영<コン・ジヨン>/著 소담<ソダム>)
日韓国交正常化40周年の2005年に出版された本。日本人と韓国人留学生のカップルが文化や考え方の違いから別れてしまったが、数年後に韓国で再会するという内容。お互いの国を理解するうえで最初の一歩になる小説だと思います。
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金 アラン
- 言語教育研究センター
准教授
- 言語教育研究センター
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韓南大学校日語日文学科(第2専攻:韓国語教育)卒、東北大学国際文化研究科で修士・博士号を取得。上智大学言語教育研究センター助教を経て、2018年度より現職。
- 言語教育研究センター
※この記事の内容は、2023年7月時点のものです