性暴力を減らし、被害者が平穏な生活を取り戻せる社会を目指す

臨床心理学を専門とする総合人間学部の齋藤梓准教授の研究テーマは、性暴力被害者の支援です。人の心に深い傷を負わせる、性暴力の問題。その正しい認識を社会に広めることの意義について、語っています。

性暴力は、文字通り暴力の一種です。しかしながら、性暴力の話題が出ると、そこには必ずと言っていいほど「派手な服を着ていたのなら、仕方ない」「一人でそんなところを歩くのが悪い」といった声が上がります。そのような考えの根底にあるのは「女性は貞淑であるべき」「男性は被害に遭わない」などというジェンダーに対する考え方や公正世界仮説、つまり人はその行動の良し悪しに応じた報いを受けるという考え方です。

私が取り組んでいるのは、性暴力の被害を受けた方の心理状態を理解し、その方たちが再び人生を歩み出すのに必要な支援を行うための研究です。性暴力の被害者の多くが感じる「被害にあったのは、自分に落ち度があったからだ」という自責の念には、先に述べたような偏見、誤った社会の認識が大きく関係しています。そのため、被害者の方に直接お話を伺ってケアをする際には、まず「あなたの身に起きたことは暴力である」という点を明確にすることが重要です。

正しい認識が、社会の偏見と加害者を減らす

研究を通じて性暴力やその支援に関する正しい認識を広めることは、性暴力の防止にも直結すると考えています。例えば、学校では教師から生徒に対する性暴力も存在し、それは、周囲に人の目がない場所で発生しています。そのことを多くの人が知っていれば、校内で大人と子どもが二人きりになる環境を作らないよう配慮もできるでしょう。また、性暴力の加害者の中には、恋人や夫婦など親密な間柄であっても、相手の同意がない状態での性的行為は暴力にあたることを知らなかった人が一定数存在します。どのような行いが性暴力にあたるのかを社会に伝えることは、加害者の減少にもつながるのです。

被害者支援の現場に関わることは、社会における被害発生の状況を知り、現場で本当に求められる支援とは何かを考えるためにも重要です。そもそも臨床心理学は、こころの悩みを持つ人たちと一緒に考えていく学問。私に限らず、臨床心理学を専門とする研究者の多くは、現場へ出て人の話を聞くことを大事にしています。カウンセリングにより被害者がさらに傷つく二次被害を避けるためには、相手に安心感を与える言葉遣い、話し方などの専門的なトレーニングが必須。また、継続的な支援を提供するためには、話を聞く側である私たちが負う心のダメージに対処するトレーニングも重要です。

辛い記憶を話してくれた人々の思いに応えたい

私の研究は、協力してくださる方がいてこそ成立するもの。辛い記憶を話してくださった方々の思いには、必ず何らかの形でお応えしたいのです。

この研究の最終目標は、被害にあわれた方が適切な支援を受けられる社会、被害にあってからも二重、三重に傷付けられることのない社会です。今後も全国にある被害者支援センターの支援員や弁護士、警察、医師などと連携しつつ、男性や性的マイノリティの方の被害に関する調査や、支援にあたる人たちの研修にも力を入れたいと思っています。

この一冊

『トリエステの坂道』
(須賀敦子/著 新潮社)

イタリアで暮らす女性と、その家族との生活が、美しい文章で描かれたエッセイ。読み返すたびに、理不尽な出来事に直面しながらも、人生を力強く生きる著者の姿に触れ、私自身もどこまでも頑張れそうな気がしてきます。

齋藤 梓

  • 総合人間科学部心理学科
    准教授 

上智大学文学部心理学科卒、同文学研究科博士後期課程満期退学。博士(心理学)。スクールカウンセリングや被害者支援での心理支援実務、目白大学心理学部心理カウンセリング学科准教授などを経て、2023年より現職。

心理学科

※この記事の内容は、2023年5月時点のものです

上智大学 Sophia University