ロシア語を「魔法の杖」にするために必要な、異なる文化や生活習慣への理解
ロシア語の効果的な学習法を研究している、外国語学部のラティシェワ・スベトラーナ准教授。ロシア語をスムーズに理解して習得するための手法や、ロシア語能力の向上に欠かせない文化や生活習慣の違いを知ることの重要性について語ります。
私は32年前に来日し、ロシア語の通訳や翻訳の仕事に取り組んできました。その後、ロシア語を教える仕事に専念するようになり、現在は効果的な学習法について研究しています。これまでの研究で、私はロシア語を学ぶうえで非常に重要なのは「発音」と「聞き取り」だと確信しています。ロシア語には巻き舌を使うなど、日本語にはない音がいくつかあり、日本人が共通して間違いやすい発音も分かっています。
授業ではこの間違いやすい発音に重点をおいて初期の段階から徹底的に指導し、ネイティブの発音に近づけます。発音の練習では学生同士がペアになり、お互いの発音をチェックします。きれいな発音とイントネーションができていれば、あとは語彙を増やせばいい。将来、いくらでも発展させることができます。
聞き取りも同様に、最初からネイティブが話すナチュラルスピードでトレーニングを行います。そうすることで早い段階から耳が慣れ、コミュニケーションがとれるようになります。長年、力を入れてきたロシア語のテキスト制作では、音声教材にこだわってきました。すべてのテキストにロシア語の音声が聞けるQRコードを入れ、ゆっくり、やや速め、ナチュラルスピードの3段階から選べるようになっています。
文化や生活習慣の違いを理解し、ロシア語を学ぶ
もう一つの研究テーマは、AIによる機械翻訳と人間が行う翻訳の比較です。機械翻訳は急速に進歩していますが、まだまだミスが多い。例えば「夜分すみません」という表現がありますが、ロシア語では「夜」は真夜中をさし、寝ている時間に訪ねてきたことになります。また、タクシーが走り出したときの「混んでいますね」「この辺はいつも混むんですよ」という会話は、機械翻訳だと車ではなくて「人」として訳してしまい、道路が人に埋め尽くされているというような誤解が生じます。ロシア語では「人」あるいは「車」など具体的な対象を入れないと、内容が正確に伝わりません。これはあいまいさが特徴である日本語と、はっきりしているロシア語の違いによるものです。
日本とロシアの文化や生活習慣の違いもまた、機械翻訳のミスにつながります。例えば、大阪や京都は西日本にある都市ですが、ロシアでは西ではなく日本の南にある都市ととらえています。生活習慣で言えば、ロシアでは人前でトイレの話をするのはエチケット違反。トイレに行くときは「電話をしてきます」などと言って席を立ちます。このような違いは現在の機械翻訳技術ではカバーできません。
語学を学んだプロセスが、生きていくうえで必ず役立つ
もちろん、機械翻訳にもメリットはあります。とくにロシア語をある程度、学んだ人にとっては有効で、ロシア語から日本語への翻訳に使った場合、自分では考えもしなかった新しい表現に気づくことができますし、語彙力もつきます。一方で、日本語からロシア語への翻訳は間違いを見つけることは難しく、大きな間違いへとつながります。機械翻訳はメリット、デメリットをよく知ったうえで使用することが大切です。
ロシア語を学んだすべての人が、将来、ロシア語を使う職業に就くわけではありません。しかし、語学を学ぶために日々、繰り返してきた勉強習慣は生きていくうえで大きなプラスになります。また、基礎ができていれば一度、ロシア語から離れても、すぐに戻ることができます。だからこそ、困難に直面しても、諦めずにロシア語を学び続けてほしい。ロシア語が「魔法の杖」として役立つ日は必ず来ると信じて、これからもよりよい学び方を研究し、提供し続けていきたいと思います。
この一冊
『ДВЕ ЛЯГУШКИ』
(ЭКСМО)
ミルクの入った壷の中に落ちてしまった2匹のカエル。1匹はすぐ諦めておぼれてしまいますが、もう1匹はバタバタしてミルクをかき混ぜ、自分の努力でバターをつくり、それを土台にジャンプして脱出に成功します。ロシア語を学び始めたばかりの学生には、短編で読みやすいロシアの昔話を原文のまま、たくさん読めるようになってほしいです。
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ラティシェヴァ スヴェトラーナ
- 外国語学部ロシア語学科
准教授
- 外国語学部ロシア語学科
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モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学歴史言語学部日本語学科卒、モスクワ極東研究所大学院修了。1991年に来日し、大手企業企画宣伝部、NHKラジオ国際放送局などに勤務。2003年上智大学外国語学部ロシア語学科非常勤講師、常勤講師などを経て、2009年より現職。
- ロシア語学科
※この記事の内容は、2023年12月時点のものです