マイクロ波サイエンスを駆使して社会貢献を目指す

「電子レンジだけではもったいない!」マイクロ波エネルギーの可能性を研究し、これを広めるための研究を行っている、理工学部の堀越智教授。マイクロ波が科学を革新できることを感じ、「皆のために何ができるのか」という思いで研究成果を出し続け、学問の発展と社会貢献を目指します。

皆さんたちも、電子レンジを使っていると思いますが、電子レンジに入れた食べ物はマイクロ波によって、ものすごく速いスピードで温まりますよね。これって不思議ですよね。私は学生時代に光と化学反応を使って汚水の新しい浄化法の開発を行っていました。その研究のなかで、光だけではなく、マイクロ波を同時に当てると汚水の浄化が数十倍早くなることを偶然発見したのです。

初めは、汚水の温度が上がったからかなと思いました。ところが、研究を続けていくと温度とは関係ないことが分かりました。「この不思議な現象は何!?」という興味で、マイクロ波の物を温める以外の利用法に気づき本格的な研究を始めました。

現在では、この不思議な現象を使いこなし、環境、化学、生物学、生命学、エネルギー、食品科学で利用し、地球環境や私たちの暮らしが豊かになるための研究を行っています。

マイクロ波を軸に学生の興味関心を研究テーマにする

私の研究室では、マイクロ波をエネルギーとして使うことに関する研究を軸に、学生の興味関心に合わせてそれぞれの研究テーマを決めていきます。学生の興味と、マイクロ波エネルギーのコラボによる研究を立ち上げています。学生の自由な発想から多くのイノベーションも生まれています。

その成果の一つにプラスチックのケミカルリサイクルがあります。プラスチックは私たちの生活にはなくてはならない化学物質ですが、令和の時代では「海洋汚染」「持続可能ではない」「地球温暖化」などの問題を引き起こす化学物質になってしまいました。

「この解決にマイクロ波が貢献できないか!?」この意気込みでプラスチック問題を解決するための研究を始めました。やり方は簡単です。匂い取りなどで使われている活性炭をプラスチックごみに混ぜ、電子レンジでマイクロ波を数秒当てるだけで、モノマーと呼ばれるプラスチックの原料に戻すことに成功しました。レンジでチンするこの簡単な方法を使えば、プラスチックと原料を永遠に行ったり来たりと循環させ、「石油不要」「ごみゼロ=汚染やCO2ゼロ」になり、これからも私たちはプラスチックと付き合っていくことができるのです。

大学と企業がお互いに得意なことを出し合う

別の特徴として、企業との共同研究が多いことが挙げられます。マイクロ波に興味を持っている企業は非常に多く、共同研究の数も年間30社を超えています。

最近は冷凍食品の共同研究も増えています。コロナ禍による巣ごもり需要から、自宅での食事が増え、冷凍食品もコロナ前の数倍に増えました。また、フードロスの観点から賞味期限が長い冷凍食品の販売は世界的規模で増加しています。しかし、「解凍に回答はない」という言葉があるように、冷凍食品の解凍はなかなかうまくいきません。冷凍食品の解凍加熱には電子レンジ(マイクロ波)が使われますが、「冷凍食品が一度で適温にならないかな」と皆さんたちも感じたことがあると思います。

私たちが作った「マイクロ波サイエンス」という新しい学問を、冷凍食品の解凍加熱に取り入れ、不可能と言われてきた、「おいしく解凍加熱する」方法に企業と共同で取り組んでいます。「マイクロ波サイエンス」×「冷凍食品」=「皆の役に立つ」ができるように、大学と企業がお互いに得意なことを出し合い、不可能を可能にする試みを行っています。

この一冊

『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』
(クリストファー・ロイド/著 文藝春秋)

本書は宇宙生誕から現代までの歴史を点ではなく線で考えることで、長い歴史を立体的に知ることができます。また、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、少数民族など、多元的な視点で文明が解説されており、鳥瞰的に歴史を旅することもできます。理系的視点でも歴史が理解できる、読み応えのある一冊です。

堀越 智

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

明星大学理工学部化学科卒、明星大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。東京理科大学准教授などを経て、2020年より現職。日本電磁波エネルギー応用学会理事長、東京学芸大学非常勤講師、日本学術振興会R24委員、科学技術振興機構研究委員、国際論文雑誌4誌のエディター。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University