学校で普及するICT授業、より学習成果を上げるための方法とは?

理工学部情報理工学科
教授
田村 恭久

パソコンやネットワークを使った授業など、教育工学の研究を専門にしている理工学部の田村恭久教授。教育工学のなかでも近年、注目されている学習分析を中心に、国内外での研究成果や実用化の事例などについて語ります。

パソコンを使った授業にはどのような効果があるのか?生徒の学習効果を高めるために、端末やソフトをどのように設計したらよいのか?私が専門とする教育工学ではこのような分野を研究しています。教育工学はコンピューターが誕生した1960年代から始まった学問ですが、広くさまざまな業界から注目されるようになったのは最近のことです。

背景には文部科学省の「GIGAスクール構想」があります。この取り組みによって小・中学生が1人1台、パソコンを持つようになり、インターネットにつないで自宅で授業を受けたり、ドリルやテストをパソコン上で解いたりするICT授業が行われるようになりました。

ICT授業は高校や大学でも始まっており、現場の教師やデバイスの販売会社など、研究で得られた知見を知りたいという関係者は多く、私は国内外で行われているこの分野の研究を調査し、講演会などで情報提供に注力しています。

教科書を見る回数と成績の良さには相関関係はない

教育工学のなかでも、とくに注目されているテーマは学習分析。ラーニング・アナリティクスとも呼ばれています。紙と鉛筆を使った従来型の授業では、生徒が授業を理解しているかどうかはクイズやドリルを解かせたり、「ここ、分かっている?」などと対話をしたりして把握するのが一般的です。一方、ICT授業では、電子教科書を見る回数や見ているページ、アンダーラインを引いている場所などの履歴やパソコンに搭載されているカメラで表情や振る舞いを収集することができるため、こうしたデータを分析することで、学習行動と成績の関係性などを明らかにすることができます。

大学生を対象とした研究結果から、電子教科書にアクセスする回数が多いことと成績の良さには必ずしも相関関係がないことが分かっています。また、授業中、教員と同じスライドを見ている学生の成績が必ずしも良いとは限らないこと、授業の前に電子教科書で授業内容の全体像を把握するような使い方をしている学生は、成績が良好であったことなども明らかになりました。このほか、授業の参加状況やレポート提出などの履歴から、退学者にはある種の行動パターンがあることも分かっています。大学のなかにはこのシステムを導入して、退学の兆候のある学生を積極的にフォローしているところもあります。

教師による一斉授業から生徒個人に合わせた授業へ

学習分析の研究が進み、効果的な学習法が明らかになると、生徒が教室に集まって一斉に同じ授業を受けるスタイルから解放され、個人個人に合わせた教材で学ぶなど、今よりも学習しやすい環境となります。その結果、勉強についていけない子どもを減らすことも期待できるでしょう。逆に対面授業の際は、教師と生徒が闊達な議論やフィールドワークの実施など、対面でしかできないことに集中できます。

また、小学校を中心に、現在、教師や教師志願者の不足が課題になっていますが、ICT化が進めばテストのマル付け業務などが減り、教えることに集中することでやりがいを感じる人も増えるのではないでしょうか。私が発信する情報がこうしたよりよい教育環境づくりの足がかりになればうれしいですね。

最近は教職課程の学生を中心に、「この分野をテーマに卒業研究がしたい」と志願してくるケースが増えています。こうした若者に現場の先頭に立ってもらうために、教育・指導をすることも私の使命だと考えています。

この一冊

『MI:個性を生かす多重知能の理論』
(ハワード・ガードナー/著、 松村 暢隆/訳 新曜社)

人間には一般的な知能とは別に、運動知能やコミュニケーション知能など、多くの知能があると提唱した、心理学の第一人者の著書です。人生の成功に必要なのは勉強だけではないということがよく分かります。将来に悩む高校生にぜひ、読んで欲しいです。

田村 恭久

  • 理工学部情報理工学科
    教授

上智大学理工学部機械工学科卒、上智大学大学院理工学部研究科博士前期課程修了。博士(工学)。日立製作所、上智大学理工学部助手、講師、准教授を経て、2014年より現職。

情報理工学科

※この記事の内容は、2023年5月時点のものです

上智大学 Sophia University