アメリカ一強の世界にも、米欧凋落にも「ノン!」。核保有にこだわるフランス

外国語学部フランス語学科
准教授
小島 真智子

フランス外交と国際安全保障について研究する、外国語学部の小島真智子准教授。アメリカからの独自路線を歩んできたフランス。アメリカ一強の時代が揺らぎ米欧の凋落が言われる現代も、この路線は有効か。フランス対米独自路線の意義について語ります。

私の専門は国際政治学です。冷戦期から、フランスが自国とヨーロッパの安全を守るためにどのような政策をとってきたかを研究しています。

芸術に美食に、フランスは文化的に世界を魅了する国ですが、外交でも独自性を発揮しています。軍事大国アメリカに対し、「同盟すれども同調せず」を貫いていることです。この外交方針は今日も不滅で、日本のみならず他の欧州諸国とも異なる、フランスならではの姿勢です。

軍縮で世界平和?日本とは真逆を貫くフランス

外交スタンスと表裏一体の関係にあるのが、フランスの核政策です。秘密裡に進められてきた核保有計画は、ド・ゴール大統領のときに実現します。国威掲揚のイデオロギーと相まって、フランスの核は軍事・政治の両手段となりました。冷戦期、米ソは敵対しながら共存してもいました。アメリカがソ連と共存するなかで、フランスはソ連の脅威への対抗に加え、フランスやヨーロッパの利益が蔑ろにされないようにという狙いからも、核政策を運用してきました。

冷戦後、核兵器は廃れたという見方もあります。核保有国が核兵器禁止条約の会議を欠席すると国際的に非難されたりします。それでもフランスが核兵器を死守するのは、まず、核大国の米露が軍縮に同意していないこと、次に、一国も抜け駆けできないような査察に基づく軍縮プロセスの不在にあります。そしてこれがフランスに都合が良いことであると、言い添えなければなりません。フランスにとって、核は国防の究極的手段であると同時に、アメリカと対等に渡り合えるための政治手段でもあるので、そこに穴があいては困るのです。

フランスが求めるのは、ヨーロッパが自身の安全を守り、外交をする多極的な世界です。そのためにもフランスは、核保有を重視しているのです。国際政治学の二極安定論に反して、フランスは、たとえ不安定でも自国やヨーロッパによる多極世界の方を好むでしょう。そこには、アメリカから独立してこそ米欧の凋落に歯止めをかけられるのだという、新たな形の対米独自路線が観察できるかもしれません。

軍縮に対する厳しいまなざしこそ、真の安全保障に必要

核を保有し、軍縮に応じないからといって、フランスが平和を望んでいないわけではありません。むしろ戦争の経験から、二度と侵略されたくない、核抑止せねば侵略される、と考えているのです。

平和とは、武力衝突のない期間といえます。この消極的平和すら実現が難しいのは今日の情勢が示すところです。武力衝突のない時空間をどう引き延ばすか。軍縮も一つの手ですが、そこには落とし穴がたくさんあります。軍縮で軍事均衡が喪失されれば戦争が起きる、というフランスの考えも無視できません。平和のために、さらには第三国を犠牲にした大国間だけの似非平和を避けるためには、フランスのように軍縮に批判的な国の厳しいまなざしに学ぶことは多いはずです。

なぜ、とある国は、ある振る舞いをして、他の振舞いはしないのかを考えるとき、その国の「いま」だけを見ても答えは出ません。私の場合、歴史家ではないですが歴史資料も読み、政府が刊行する公文書を調べ、政治家や現地の研究者へのインタビューを行います。その過程で、フランスはなぜ核保有にこだわるのかが少しずつ理解できてくるのです。

翻って日本を見ると、アメリカと距離を置くことが難しい国といえるでしょう。だからこそ、自国の命運を他国に握らせることを極限まで嫌うフランスに学ぶ意義があると私は考えています。

この一冊

『服従』
(ミシェル・ウエルベック/著 大塚桃/訳 河出書房新社)

「2022年の大統領選挙でイスラム系フランス人が大統領になる」という架空の物語。フィクションながら実在の人物も登場し、まるでノンフィクションのよう。問題作であることは承知の上で、現代フランスが抱える問題がちりばめられた魅力的な小説だと感じています。

小島 真智子

  • 外国語学部フランス語学科
    准教授

慶應義塾大学総合政策学部卒、パリ第一大学国際関係学専攻政治学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。外務省専門調査員、名古屋商科大学経済学部准教授などを経て、2020年より現職。

フランス語学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University