持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標4は「質の高い教育をみんなに」。総合人間科学部の杉村美紀教授は、さまざまな国際的プロジェクトを通じて言葉や文化の違いを超えて人々が学び合う場づくりを目指しています。
ESDという言葉を聞いたことがあるでしょうか? Education for Sustainable Developmentの略で、日本では「持続可能な開発のための教育」と訳されています。SDGsの目標の一つである「質の高い教育をみんなに」を達成し、持続可能な未来の担い手を育成することでSDGsの17の目標すべての達成に寄与するものです。
現在、日本にはユネスコの承認を受けたユネスコスクールが1,000校以上存在し、ESDが推進されています。私はESDの実現のために、全国の学校の先生方や国内外の研究者の方々とともに、プログラム開発や政策に関する検討を進めています。研究対象には世界の様々な国や地域で行われているESDも含まれています。
出発点はマレーシアの教育。多文化共生社会は日本の近未来
私の専門は比較教育学・国際教育学です。国際化やグローバル化による人の移動と教育がテーマです。留学生、移民や難民、外国人労働者など、本人やその子どもたちの教育と、それをめぐる支援や政策について調査・研究をしています。
また、人々が移動すると、文化や知識、思考や価値観も一緒に動きます。それを「知の移動」と呼び、どのような教育文化交流が生まれるか、そしてどのような「プラットフォーム」が形成されるのかを考察しています。
研究の出発点はマレーシアでした。同国は、他民族国家で、マレー系、中国系、インド系などの民族が混じり合って暮らす多文化・多言語社会です。ともすれば分断社会になりそうなこの国をまとめる教育政策とは何か、他国の教育政策と比較して研究してきました。
日本にも外国人が増え、教育のあり方も再検討を迫られています。多文化共生における持続可能な教育とは何かを考えることが重要であると考えます。
国が対立していても個人の知を持ち寄って学び合える場を
現代は結果で評価されることが多い時代ですが、教育にはプロセスを重視し、広い視野をもった取り組みが必要ではないかと思います。それは歴史に学び、人々の交流や学びが紡ぐ夢や理想に向かって道筋を作ることです。
国際教育の現場にいると、時に「実現は難しいだろう」と思っていたことが目の前に立ち現れる瞬間があります。例えば、対立する国の人が共に学び合う姿です。立場の違いを理解し、互いの知を持ち寄り、意見を交換し、新しい知が創造されていく様子を見ると、人と人との交流や学び合いこそが、持続可能な未来を創ることを強く感じます。2024年からは「人間の尊厳、平和、サスティナビリティのための教育」をテーマとする上智大学のユネスコチェアのチェアホルダを務めます。知の交流とプラットフォームの形成に少しでも貢献したいと心から願っています。
この一冊
『人間をみつめて』
(神谷美恵子/著 みすず書房)
精神科医である著者が、ハンセン病療養所で献身的に治療に取り組んだ日々が綴られています。人間の尊厳を大切に、生きることの意味を問う内容は、手に取るたびに新しい発見があり、背中をそっと押してくれるような本です。
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杉村 美紀
- 総合人間科学部教育学科
教授
- 総合人間科学部教育学科
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お茶の水女子大学文教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科満期退学。博士(教育学)。上智大学文学部教育学科専任講師、同総合人間科学部教育学科准教授を経て2013年より現職。
- 教育学科
※この記事の内容は、2023年12月時点のものです