次世代太陽電池や自然に還る高分子材料など、新素材の研究で未来に貢献する

理工学部物質生命理工学科
教授
竹岡 裕子

材料開発を専門とする理工学部の竹岡裕子教授。ノーベル化学賞候補として注目されるペロブスカイト太陽電池の素材開発や、自然に還る生分解性高分子の研究など、未来に役立つ素材の基礎研究について語っています。

近年、ノーベル化学賞の候補として「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。ペロブスカイトとは、ABX3の組成で表される結晶構造を持つ物質の総称であり、太陽電池に用いられるのは金属ハロゲン化物です。軽く、加工しやすい特長を持ちます。

ペロブスカイト太陽電池の発電効率はすでに25%を超え、実用化は間近とされていますが、まだ耐久性や安定性は十分ではありません。この太陽電池の素材であるペロブスカイト化合物の長寿命化や多様化の研究をしています。

次世代太陽電池として期待される夢の材料

私がペロブスカイト化合物に出会ったのは、1998年に遡ります。上智大学の讃井浩平名誉教授をリーダーとする共同研究プロジェクトに参加したのがきっかけでした。現在、ノーベル化学賞候補として注目されている桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が論文を発表されたのは2009年ですから、10年も前のことになります。

実は研究を始めた当初、私はこの材料が太陽電池に応用できることに気づいていませんでした。低次元のペロブスカイト化合物を使って量子閉じ込めに特有の現象を確かめる研究をしていたため、太陽電池に使われる三次元の構造には着目していなかったのです。

とはいえ、共同研究プロジェクトの上智大学のメンバーだった手嶋健次郎博士が、太陽電池の専門家である宮坂先生とペロブスカイト化合物の出会いのきっかけとなりました。つまりペロブスカイト太陽電池には上智大学の研究が大きく関わっています。

この素材が画期的なのは、モノの表面に印刷や塗装のように「塗る」ことができること。現状のシリコンや有機薄膜を使った太陽電池では、プラスの電荷を取り出す半導体(p型)とマイナスの電荷を取り出す半導体(n型)の二種類を組み合わせる必要がありますが、ペロブスカイトは両方の電荷をそれぞれの電極に導く特性(両極性伝導)を備えるため、簡単につくれるのも大きなメリットです。

製造過程でCO2の排出量を大幅に抑えられるのも魅力です。近い将来、ペットボトルにペロブスカイト太陽電池を貼って、ピクニックをしながら発電する、なんてこともできるようになるかもしれません。

よりよい未来社会のために、研究を役立てたい

ただし、課題もあります。一つは、空気中の水と反応して構造が壊れやすいこと。そこで、私たちは安定性に優れた二次元のペロブスカイト化合物を用い、そのうえで、電気を流れやすくするために、作製法を工夫して、この構造が自律的に垂直に立つようにして、安定性を高めようとしています。

もう一つの課題が、人体に有害な鉛を含むこと。この解決に向けて、現在、世界中の研究者が研究を加速しています。ペロブスカイト太陽電池は日本発の研究ですが、海外の研究者の勢いが増しています。

私は、この物質が発光材料や触媒として優れていることに着目して、多様な機能を持たせ、太陽光発電以外での活用も探っているところです。

このほか、生分解性高分子の研究にも取り組んでいます。植物などを原料とし、土に還る生分解性高分子は、マイクロプラスチック問題解消の切り札です。強靱でありながら、土壌だけでなく海や河川などでも分解し、最終的に自然に還る材料をつくろうと奮闘しています。

新材料の基礎研究を通じて、次世代社会をより良くしたい、というのが私の研究者としての願いです。

この一冊

『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』
(西岡常一、小川三夫、塩野米松/著 新潮文庫)

法隆寺金堂再建などで知られる宮大工の西岡常一さんとお弟子さんの語りによる本です。数世代先を見据えた仕事の仕方と心持ちに圧倒されました。将来に目を向け、木を育み、その特性を活かす様は、研究や教育にも通じます。

竹岡 裕子

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

上智大学理工学部化学科卒、東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。工学博士。上智大学理工学部准教授などを経て、2018年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University