このマンゴー、本当においしい?データ分析で製品・サービスの質向上に挑む

社会システム工学を専門とする理工学部の山下遥准教授は、統計解析や機械学習などの手法を使って、企業が直面するさまざまな課題の解決に取り組んでいます。製品やサービスの質の向上に貢献するデータ分析の魅力について語っています。

新製品を評価する代表的な検査方法の一つに、人間の五感を用いる「官能検査」があります。評価する製品が食品なら、検査員が実際にサンプルを食べて味、舌触り、歯触りなどを確かめます。機械では判定しにくい要素を、顧客目線で評価する方法です。 

検査員の数が多いほど正確で、信頼性の高い判定に近づくのは言うまでもありません。しかし今は、コロナ禍で多くの検査員を一カ所に集めるのは難しいという制約があります。そこで私の研究室では統計的手法を駆使して少ない検査員数で、なおかつ質の高い情報を得るという課題に取り組んでいます。

マンゴーのおいしさを効果的に評価する分析手法

マンゴーのおいしさを効果的に評価する研究がスタートしたのは、東京農業大学と宮古島の農家の方から、彼らが共同研究で開発した温泉マンゴーを評価して欲しいと依頼されたことがきっかけでした。成分レベルでは良質のマンゴーが出来ましたが、本当においしいのか知りたいというのです。

官能検査でマンゴーのおいしさを顧客目線で評価するには、コロナ禍ということもあり、できるだけ少ない検査員数で検査を行う必要があります。検査員数を抑えるポイントの一つは、事前にアンケートを行って検査員ごとに特性が重ならないようにすることです。例えば、マンゴーにどれだけお金をかけられるかという項目に対して、同じ金額を答える人が2人以上いれば、1人に絞るといった方法です。すべての検査員が甘さや酸っぱさなど、いくつもの項目について評価するのではなく、ある人は甘さだけを、別の人は酸っぱさだけを評価するといった工夫をします。このように官能検査の方法を変えて、質の高い情報を得るために必要なデータ分析の手法を開発しています。

企業の課題を解決するデータ分析手法で学術にも貢献

同様の考え方は、マーケティングにも応用できます。例えば、インターネットのオンラインショッピングサイトを利用する顧客の購買履歴や閲覧履歴を分析し、どんなクーポンや試供品を、どのような顧客に送るのが最適かを考えたいとします。これは、検査員の数が少なくても、質の高い情報を得るにはどうすればいいのかという課題と基本的に同じです。

とはいえ、オンラインショッピングサイトのデータは膨大でデータの構造も複雑なので、同じデータ分析手法が使えるわけではありません。製造業の品質管理や実験計画法で用いられてきた手法をベースにしていますが、既存の手法が適用できない場合には機械学習などの最新のAI技術の改良も行います。

私たちの研究は、企業が抱える問題と密接な関係にあります。私は、企業の課題を解決するなかで、しばしば学術的にも新しい分析手法が生まれたり、研究の適用範囲が広がったりするところに面白さを感じています。企業が抱える課題は消えてなくなることはありません。ということは、私たちが取り組むべき研究テーマも尽きないということです。

データ分析の力を使って、今より少しでもよい世界を作るのが私の目標です。劇的に変えるのは難しくても、少しだけ便利に、少しだけ魅力的な社会を築ければいいですね。そのために私自身もバージョンアップしていきたいと思います。

この一冊

『続・わかりやすい パターン認識  教師なし学習入門』
(石井健一郎・上田 修功/共著オーム社))

音声・画像処理、ビッグデータの分析に必要な基本知識をまとめた本です。大学院時代の勉強会の課題図書でした。先輩に「著者は何を言いたいと思うか」と何度も質問されたおかげで、精読の大切さに気づかされました。

山下 遥

  • 理工学部情報理工学科 
    准教授 

東京理科大学理工学部経営工学科卒、慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修了。博士(工学)。早稲田大学理工学術院経営システム工学科助手、上智大学理工学部情報理工学科助教を経て、2022年より現職

情報理工学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University