その「脱炭素」は本当にSDGsか。着実に未来につながる取り組みを考える

地球環境学研究科地球環境学専攻
教授
鈴木 政史

地球温暖化や、世界各地で起きる豪雨や干ばつなどの異常気象。気候変動問題の解決策を研究する地球環境研究科の鈴木政史教授が、持続可能な脱炭素対策と、それがもたらす社会的な意義について語ります。

私の専門は、気候変動問題です。地球温暖化や異常気象を引き起こす原因となる温室効果ガスの削減は、世界の緊急課題。日本は2030年までに温室効果ガスを46%削減するという目標を掲げており、多くの企業が脱炭素、つまり再生可能エネルギーの普及に向けて努力しています。その中心にある技術開発を新しいビジネスモデルとしてどう取り入れるかが、私の研究領域です。

環境問題の解決のための技術が、環境破壊をもたらすことも

私が注目しているのは、脱炭素とSDGsとの関連性です。SDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標として、2015年の国連サミットで採択されました。脱炭素のために再生可能エネルギーに切り替えることは、一見正しいように思えます。しかし、問題は単純ではありません。

たとえば再生可能エネルギーの一つである太陽光発電や風力発電ですが、ソーラーパネルや風車を設置するために、大規模な森林伐採が行われています。森林が失われると地盤が緩み、土砂災害が起こりやすくなります。生物多様性にも悪影響がある。つまり、脱炭素という面では効果があっても、それ以外のSDGsにマイナス影響を与えているのです。

では、SDGsにプラスの影響を与える再生可能エネルギーとは何でしょう。その一例が、地方の小規模発電です。現在の日本では、都市部と地方との経済格差は広がるばかり。財政的に厳しい地方では、電気を大手電力会社から購入するのも大変です。しかし、地元の川に小さな水力発電所を作って自給自足型、地産地消型の電力を生みだす地域もあります。脱炭素はもちろんのこと、地域の財政を潤わせ、災害時の電力確保対策にもなっています。

私はこのような取り組みに着目し、奄美大島や佐渡島などの各地に足を運び、さらには太平洋の島しょ国など海外においてもその土地に合った再生可能エネルギーとは何かを研究しています。

脱炭素でSDGsであることが経営戦略になる時代

さらに、企業が気候変動にどう対応しているかという点にも注目しています。私が関わっている流通の分野でも、電気自動車やドローンを使って物を運んだり、飛行機に重油ではなくユーグレナというミドリムシ由来のバイオ原料を使って飛ばしたりと、脱炭素に向けた模索が始まっているのです。

企業が脱炭素に本腰を入れ始めたのは、ここ数年のことです。大企業はもちろん、独自のアイディアで脱炭素を進めている小さな会社もあります。それは脱炭素が単なる企業のイメージ戦略ではなく、コアな経営戦略にもなってきているからでしょう。海外の機関投資家が日本の株を買うとき、環境問題や社会問題に真剣に取り組んでいる企業かどうかを、一つの判断材料にしていることも無視できません。

これまで脱炭素とSDGsは別々に進んできました。しかし脱炭素を進めることで、お金がある人とない人、先進国と途上国といった社会的分断が進み、持続可能なものでなくなる可能性もあります。この二つの関連性の研究は、まだあまり進んでいません。私の研究が押し付けではない持続可能な脱炭素社会を実現する一助になればと考えています。

この一冊

『LIMITS TO GROWTH』
(Donella Meadows他/著 Chelsea Green Pub Co)

人口増加と環境破壊が、人類の成長の足かせになることを具体的に示した最初の本です。初版は1972年。この時代に地球規模の環境破壊に警鐘を鳴らしたことがすばらしい。『成長の限界』(ダイヤモンド社)という訳書もあります。

鈴木 政史

  • 地球環境学研究科地球環境学専攻
    教授

慶應義塾大学大学院及びアメリカ・コロンビア大学にて修士号、オランダ・エラスムス大学にて博士号取得。国連気候変動枠組み条約事務局(UNFCCC)や国連経済社会局(UNDESA)のコンサルタント、国際大学大学院国際経営学研究科副研究科長、関西大学商学部准教授などを経て、現職。

地球環境学専攻

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University