マイクロ波スペクトルを測定・解析して、分子の立体構造を解明

理工学部の久世信彦教授の専門は物理化学。マイクロ波を用いたスペクトルの観測実験と、量子力学をベースとした理論解析の両面から、気体状態の分子の構造について研究しています。

分子に電磁波を照射したときに現れるスペクトルを解析して、肉眼では見えない分子の構造や特性を解き明かしていく。それが分子分光学という研究分野です。私たちの研究室ではマイクロ波を用いた実験により、気体状態の分子に関するデータ解析をしています。ターゲットにしているのは人や動物が香りを感じる物質で、これまでに20~30種類の分子の構造を解析し、現在は「青葉アルデヒド」と呼ばれる分子を対象にしています。

理論計算と実験データを結びつけて「答え」を導く

分子は気体中で回転運動をしており、マイクロ波を照射して回転スペクトルを観測することから分子の立体的な形を知ることができます。実は同じ化学式で表される分子にも、異なる立体構造を持つ「異性体」が何通りも存在することが分かっており、回転スペクトルによる解析は分子の構造をより細かく調べることに適しています。分子の構造を把握することは、香りを感じるメカニズムの解明に向けた出発点となる研究であり、日々、実験データの収集と解析に取り組んでいます。 

実験ではスペクトルを精密に測定することが重要ですが、観測データを見ただけでは分子の構造を知ることはできません。スペクトルの観測と並行して、なぜこのスペクトルが現れるのかを量子力学の理論計算に基づいて分析し、分子の構造を予測する必要があります。つまり、あらかじめスペクトルのパターンを算出しておき、観測データの解析の参考にすることで、少しずつ分子の構造が分かってくるのです。解析パターンと観測データのマッチングは試行錯誤の繰り返し。パズルのピースを一つひとつ当てはめていく地道な作業ですが、観測データが解析結果とピタリと一致したときは大きな達成感を得ることができます。 

宇宙空間に存在している未知の星間分子を探索

私たちが観測・解析の対象としているのは、地球上の分子だけではありません。地球には宇宙空間からさまざまな分子が発するスペクトルが届いており、電波望遠鏡を向けて観測することで、どのエリアに、どのような分子が存在しているのかを知ることができます。実際に世界各国の科学者が探索を行っており、これまでに200種類以上の星間分子が発見されています。

星間分子には特徴的な構造を持っているものが多くあり、地球では安定して存在できないものもあります。このような短寿命分子の構造解析には、実験室の中で一瞬だけ候補となる分子を作り出さなければなりません。例えば2種類の気体を混ぜ、強い電場を通して新たな分子を創成するなど、柔軟な発想で実験手法を開発することも重要な研究テーマとなります。

星間分子の候補となる未知の分子は簡単に作れるものではありません。それでも実験を繰り返すことで、特異な構造を持つ分子が見つかることもあり、いつか実験室で解析した分子が宇宙で発見されることが研究のモチベーションになっています。これからも実験を通してさまざまな情報を集積し、多種多様な分子の構造に関する精度の高いデータを後世に残して、幅広い科学分野の研究活動を支えていきたいと考えています。

この一冊

『歌の翼に』
(トマス・M・ディッシュ/著 友枝康子/訳 国書刊行会)

高校時代に読んだSF小説です。歌うことで主人公が別世界に飛翔しようとする教養小説ですが、近未来のアメリカを舞台に人種や宗教、経済など社会問題を切り口に社会のあり方を考察している点にも面白さを感じました。

久世 信彦

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

北海道大学理学部化学第二学科卒、同大学院理学研究科化学第二専攻博士後期課程修了。博士(理学)。上智大学理工学部化学科助手、講師、上智大学理工学部物質生命理工学科准教授を経て、2016年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2023年9月時点のものです

上智大学 Sophia University