理解できない不思議さに魅せられて、日仏の社会・政治を比較研究

外国語学部フランス語学科 
准教授 
サルブラン・シモン

日本における憲法学の役割や歴史を研究している外国語学部のサルブラン准教授。最近では、政治や社会におけるジェンダー平等へと研究テーマが広がり、フランスのパリテ法研究や女性政治家を増やすための取り組みについて語ります。

私は日本とフランスを比較しながら、社会や政治について研究しています。日本に関心を持ったのは大学時代。日本はフランスから最も遠く、文化や言語など全てフランスの対極にあると感じたことが理由でした。その経験もあって、学生には、理解できないことにこそ目を向けて、その不思議さを味わい、楽しんで欲しいといつも話しています。

私はこれまで日本の憲法学をメインに研究に取り組んできました。憲法学は、憲法そのものではなく、日本の歴史のなかで憲法に求められてきた役割やその背景にある思想に着目し、考察する学問なので、明治以降の日本の思想史研究という側面もあります。

近代日本の思想史という側面もある日本の憲法学

フランスでは、憲法は純粋に法律として機能しており、政治的な意味はほとんどありません。一方、日本では、憲法は明治時代に日本が西欧化を目指すなかで海外から入ってきたものです。日本の憲法学者たちは、単に法律を作り、その解釈を定義するだけでなく、日本にふさわしい憲法の在り方を考え、日本国民に対し法や憲法とは何か、なぜ必要なのかを説明する役割も担ってきました。

日本では、憲法改正は大きな議論を呼びますし、憲法学者は、日本の政治や未来について、知識人としてコメントを求められる存在です。一方、フランスの憲法はすでに100回以上、改正されており、政治的な問題について、新聞が憲法学者の見解を聞くことはありません。こうした違いが非常に興味深いのです。

この謎を解き明かすキーワードは、立憲主義です。簡単に言うと、日本では、憲法のおかげで民主主義が機能すると考えられています。これに対し、フランスの場合、まず民主主義があります。そして民主主義には立憲主義が必要という考え方です。

将来的には、日本の憲法学者が構築してきた思想や理論について、戦前と戦後に分けて体系的にまとめた本をフランス語で執筆することも視野に入れています。

政治家になる上でのジェンダーや経済格差にも注目

上智大学のフランス語学科で教えるようになってからは、フランス語学習の教科書の執筆や、学生の関心が高いフランスの政治や社会を対象とした日本との比較研究にも取り組んでいます。その一つが、2001年から施行されたフランスのパリテ法の研究です。パリテ法は選挙の際、政党に候補者を男女同数にすることなどを義務付けた法律で、女性政治家が少ない日本においても、その導入をめぐる議論が起こるなど関心の高い法律です。

1990年代はフランスも日本と全く同じ状況でしたが、20年以上経った今、議員数は男女ほぼ同数になっています。このパリテ法の歴史や考え方、ジェンダー平等の推進について、私はこれまで度々論文にまとめてきました。またパリテ法研究の一環として、現在、他の研究者たちとチームを組んでフランスと日本の女性議員へのインタビューも行っています。

フランスには資金力のない人でも政治家になれる仕組みもあり、2022年の選挙では、清掃業者だったラシェル・ケケ氏が当選して議員となり、話題になりました。彼女は労働組合での手腕が評価され、同じことを国全体でも広げたいという思いから政治家を目指した人です。

女性政治家を増やし、男女格差を是正する取り組みと同時に、経済的に恵まれているかどうかに関係なく、政治家を目指すことができるか、という点にも目を向けていく必要があるでしょう。

この一冊

『「エグゾティスム」に関する試論』
(ヴィクトル・セガレン/著 木下誠/訳 現代企画室)

アジアで長く暮らした著者は、「エグゾティスムは悪ではない。理解できないからこそ、人は異文化に憧れる。その気持ちを美食家が料理を楽しむように味わうべき」と論じています。その考えに大いに共感したことが日本研究を目指すきっかけにもなりました。

サルブラン・シモン

  • 外国語学部フランス語学科 
    准教授 

パリ第7大学文学部日本文化学科政治思想専攻卒、神戸大学大学院人間発達環境学研究科修了、同大学院研究科博士後期課程修了。博士(人間発達環境学)。神奈川大学外国語学部准教授などを経て、2018年より現職。

フランス語学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University