ある条件下で電気抵抗がゼロになる超伝導体のメカニズムの解明や、新材料の開発に取り組む理工学部の足立匡教授。新たな産業革命やエネルギー革命につながると期待されるこの研究の現在と未来について、語っています。
私たちの生活に欠かせない電気は、発電所から送電線や配電線などの電線を通して運ばれてきます。この電線の主な材料として使われているのが、電気を通しやすい銅。しかし、どんな物質にも電気の一部を熱として逃がす電気抵抗という性質があり、電気を100%そのまま送ることはできません。この問題を解決するのが「超伝導体」という、ある条件下で電気抵抗がゼロになる物質です。私はこの超伝導体のメカニズムの解明と、超伝導体になる新たな材料を開発する研究をしています。
電気抵抗ゼロの超伝導体を電線に使うことができれば、電気のロスを大幅に減らすことができるので、エネルギーの節約になります。世界中を超伝導電線でつないで、砂漠に設置した太陽光パネルから太陽光の自然エネルギーで発電し、24時間、世界中に電気を効率よく運ぶことができれば電力不足は解消され、CO₂の削減にもつながります。このように、超伝導体が身近に使えるようになることで世界の産業が大きく変わると言われています。
より高い温度で超伝導になる材料をめざして
超伝導体がすでに実用化されている例としては、リニアモーターカーがあります。リニアは強力な電磁石で車体を浮上させて走行しますが、この電磁石を作る金属コイルに超伝導体が使われています。また、医療用の検査機器であるMRI(磁気共鳴画像診断装置)の心臓部にも、超伝導の電磁石が利用されています。
ただし超伝導体には大きな課題もあります。電気抵抗をゼロにするために、極めて低い温度での冷却が必要なのです。リニアやMRIも、マイナス200度以下に冷却をしながら動かしています。私たちが暮らす標準的な圧力の下では、最高記録として「マイナス138度」で超伝導体になる材料が見つかっていますが、もっと高い温度で超伝導になる材料を開発すべく、世界中の研究者が取り組んでいます。
新材料の開発は地道な作業の繰り返しです。超伝導体に関する論文などを参考にレシピを考え、さまざまな材料を混ぜ合わせて焼くなどして加工します。できた超伝導物質を解析装置にかけて、原子の構造や電気抵抗がどのくらいか、材料が持つ磁石の性質はどうか、などを調べます。常に手を動かす、アナログ的な泥臭い作業です。しかも、世界に5カ所しかない大型加速器を使わなければ解明できない材料の性質があり、年に数回は実験室から海外に出向きます。
比較的高い温度で超伝導になる物質では、なぜ電気抵抗がゼロになるのかという詳細なメカニズムはわかっていません。これを解き明かすことは新しい材料を開発するヒントになります。そのため、材料の性質を調べる研究にも力を入れています。一つの成果として、電子キャリア型の高温超伝導体について、酸素を抜く還元処理によってどのように超伝導が現れるのかを解明することができました。
新しい材料を作製する作業は、宝探しに似ている
この研究は宝探しに似ています。掘り起こすまでには手間と時間がかかりますが、見つかればリニアのように私たちの生活を大きく変える機器につながる。常温で電気抵抗がゼロになる超伝導体ができれば、ノーベル賞が獲れるとも言われています。
道のりは果てしないですが、可能性はゼロではありません。数年前にはドイツのグループがそのヒントとなる現象を発見しました。冷却ではなく圧力によって超伝導現象を導く驚きの方法です。まさに宝の手がかりで、大いに興味をそそられています。
私たちが取り組む基礎研究は世の中で使われるものの根幹です。材料がなければものを作ることはできない。このことを常に意識して研究に取り組むこともモチベーションにつながります。これらかも夢と同時に使命感を持ちながら取り組んでいきたいと思います。
この一冊
『超伝導』
(小池洋二/著 内田老鶴圃)
この本を書いたのは私の大学院時代の指導教員です。実験を専門にしている研究者ということもあり、難しい内容もわかりやすく解説されていると思います。これから超伝導の勉強を始める大学生や大学院修士課程の学生にとくにおすすめです。
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足立 匡
- 理工学部機能創造理工学科
教授
- 理工学部機能創造理工学科
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東北大学工学部応用物理学科卒、同大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、東北大学大学院工学研究科助教、Simon Fraser University客員研究員、上智大学理工学部機能創造理工学科准教授を経て、2018年より現職。高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所ミュオン科学研究系客員教授も務める。
- 機能創造理工学科
※この記事の内容は、2022年9月時点のものです