SDGs時代に経営をどう誘導していくか、新時代の企業統治のあり方を追究

商法、会社法、株主訴訟を軸に、コーポレートガバナンスのあり方について研究する法科大学院の土田亮教授。SDGs時代に求められる企業統治とはどのようなものか。その答えを導く研究の重要性について語っています。

コーポレートガバナンス、つまり企業統治の研究を始めたきっかけは、2014年、りそな銀行の社外役員になり、責任投資に取り組んだことにあります。責任投資は、投資家がESGの要素、つまり環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点を投資プロセスに組み込むアプローチです。従来、投資家は業績などの財務情報を中心に企業を分析してきました。ところが、気候変動や人権問題などに対する意識が世界中で高まるなか、ESGに積極的に取り組んでいるかどうかも企業が長期的に成長するためには欠かせない、という認識が広がってきています。

経営をどう導いていくか、現在進行形の課題

責任投資を行う際は、企業がSDGs(持続可能な開発目標)をどれだけ尊重しているかなどを重視することになります。一方で企業は、利潤を最大化するための効率的な経営が目標。SDGsが示す気候変動対応や人権尊重などはコストに直結し、企業の“効率的な経営”を阻害する面があり、ここで矛盾が生まれます。

研究では、コーポレートガバナンス論とSDGsの接点を見いだし、経営者が持続可能な経営を実現できるガバナンスシステムを追究し、企業に示していこうとしています。持続可能な経営について明示していくなかで、今までの考え方を批判することも多々あります。なぜなら、持続可能な企業になるための提案に際して、従来は算定されなかった環境や多様性などに関わる外部コストを経営に組み込むことを容認するのですから。ただ、このコストは企業で負担すべきものなのか、それとも社会でも負担するべきものなのか、この問いはいち企業で解決できるものではなく、社会制度そのものに深く関連します。社会と一緒に、これからのコーポレートガバナンスのあり方をどう提示していけるかが、研究の重要なテーマとなっています。

「三方良し」が持続可能な経営のキーワードに

SDGsに対して日本企業は様子見が多いのが実情ですが、世界の動向を見てみると概して欧米企業は積極的です。これは法規制が厳しいのではなく、SDGsをビジネスチャンスとして捉えているからです。例えば、金融の世界では、企業を化石燃料を利用しているブラウン企業と脱炭素経営のグリーン企業に分類。ブラウン企業には貸出金利を高く、グリーン企業には金利を安く設定することが考えられています。つまり、環境を含めた社会の持続性に貢献する企業に投資が集まりやすくしようとしているわけです。

低迷する日本経済の中で、日本型経営の限界が指摘されてきましたが、SDGs時代では日本型経営のメリットが顕著になります。利益最大化を重視する経営では株主が第一となる一方、持続可能な経営では株主や経営者だけでなく従業員、消費者、地域社会など多様な利害関係者が協働して課題解決にあたるマルチステークホルダーが基本となってきています。売り手良し、買い手良し、世間良しの日本型経営の「三方良し」の考え方に通じますが、これこそがSDGs時代のコーポレートガバナンスのキーワードにほかなりません。

SDGs時代の企業経営では、コストを適正に受け入れ、付加価値を生んだところに利益をきちんと分配することが優れた経営と評価されることになるでしょう。時代にふさわしい、よりよい方向に経営を導くための企業統治のあり方を追究していきたいです。

この一冊

『会社法の正義』
(草野耕一/著‏ 商事法務)

法の数理分析である数理法務を用いて会社法の論点をわかりやすく解説した最初にして頂点に立つ本です。ロジックだけではなく、行動した結果の影響も考慮して決定するという考え方が示され、さまざまな主張の妥当性を考えるうえでとても参考になる一冊です。

土田 亮

  • 法科大学院
    教授

上智大学法学部卒、同法学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(法学)。東亜大学法学部専任講師・助教授、名城大学法学部助教授、大宮法科大学院大学准教授・教授、専修大学法学部教授などを経て2020年より現職。法律事務所フロンティア・ロー弁護士。

法曹養成専攻(法科大学院)

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University