違いを乗り越えてより良い合意を重ねていけば、より良い社会を実現できる

法学部国際関係法学科
教授
森下 哲朗

国債取引法、金融法、交渉学を専門とする法学部の森下哲朗教授。多様な価値観の違いを乗り越えて、より良い社会をつくるために合意をどう導くか、国際社会における交渉学の重要性について語っています。

人が人との間で何らかの合意を目指して働きかけようとする場合、そこには交渉が生まれます。外交やビジネスの世界では言うまでもありませんが、日常生活でも数多くの交渉が行われています。

例えば、友人や家族とどこに出かけるかを決める場合、それぞれが希望する目的地、出発時刻、移動手段、経路、予算など一つひとつ調整して、なるべく全員が納得できるように合意していく必要があります。交渉は、決して特別なものではなく、身の回りのさまざまなシーンでも行われているのです。

グローバル化する世界で、ますます高まる交渉の重要性

グローバル化が進み、文化や価値観の異なる多くの国々と友好関係を築き深めていかなくてはならない日本にとって、交渉力に優れる人を育てていくことは重要です。どれだけ良いアイデアや技術、製品、サービスを持っていても、交渉力がなければそれらの価値を十分に生かせなくなってしまうからです。

日本では、強い自己主張よりも、相手の思いをくんで和を重んじる文化的な背景があるからか、交渉というと何か特別のもの、難しいものと考えられがちです。しかし、決してそうではなく、交渉は私たちの生活の至るところにあるもので、そのスキルは学習・訓練によって磨くことができます。

私は、2005年にハーバード大学ロースクールで交渉学を教えている先生に上智大学で集中講義をしていただいて以来、交渉学の研究と教育に力を入れてきました。交渉学では、合意のために、どのようなコミュニケーションが必要なのかを学びます。交渉の研究では、ケーススタディや過去の交渉を分析するだけでなく、心理学や行動経済学も活用するなど、広い視野が必要です。経験値から導かれる知見も交渉学では多く求められますが、それらを整理して一般化することで、双方が満足できる合意を得るための研究に取り組んでいます。

交渉で最も重要なのは相手を理解することであり、相手がどう受け止めてくれるのかという点です。自分が正しくとも相手が納得しなければ合意はできません。勝ち負けを競うのではなく、お互いを尊重し、違いを認識したうえで問題を生産的に解決していくことが交渉の本質なのです。

交渉学は社会に貢献できるダイナミックな学問

ただ、あるレベルを超えたら交渉を打ち切って合意しないほうが良い場合もあります。友達などの間であっても、相手の要求にすべてイエスというわけにはいきませんよね。合意するよりも良い選択肢がある場合には、合意しないほうが良いのです。合意できなくとも、しっかりコミュニケーションを行えば、関係が崩れることを避けられるでしょう。

合意が難しい場合に、第三者が仲介して合意に至るケースもあります。双方から信頼されていて、一方の肩を持たない仲介者が、お互いの不利益にならないようなアイデアを出すことによって合意に導ける可能性があるのです。難しい状況に陥った国際紛争では、第三者の仲介が合意形成に有効なことも多いです。そして、合意しないことより、合意したほうが得だと思わせるアイデアを示すことができれば合意による紛争解決に結び付くのです。

交渉学は新しい学問なので、いろいろな発見があるのが面白いところです。そして、その成果は、個人や企業、国家など、どのレベルでも活用できます。交渉学は、違いを乗り越え、より良い合意を重ねることで、より良い社会をつくり上げることに貢献できるダイナミックな学問です。

この一冊

『ハーバード流交渉術』
(ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー/著 金山宣夫、浅井和子/訳 三笠書房)

交渉は、勝ち負けではなく、違いを話し合うことでお互いに利益になる案を考えることです。どんなに説得しても相手がイエスと言わなければ交渉にはなりません。本書には、交渉力を磨くアイデアが詰まっています。

森下 哲朗

  • 法学部国際関係法学科
    教授

東京大学法学部卒。東京大学法学政治学研究科経済法務専修コース修士課程修了。修士(法学)。1989年、株式会社住友銀行入行、1999年より上智大学法学部助教授。2007年より上智大学法科大学院教授、2021年よりグローバル化推進担当副学長、法学部教授。

国際関係法学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University