日本の伝統ある文化産業とクリエイティブ産業を研究し、発見の旅へ

経済学部経営学科
教授
アダム・ジョンズ

グローバル・マーケティングを教える経済学部のアダム・ジョンズ教授は、プレイス・ブランディング、文化産業、クリエイティブ産業について研究しています。近年は、日本や地方自治体による伝統工芸の振興に焦点を当て、伝統工芸のリインベンション、リブランディングの手法や、伝統工芸の文化的本質や真正性(つまりオーセンティシティー)を損なわずに新たなストーリーを提案する方法を研究しています。

最近注目しているのは、文化産業やクリエイティブ産業が持つ価値を、国や地域、都市がどのように活用し、産業や地域全体の振興につなげているかということです。日本の伝統工芸は数十年にわたり衰退の一途を辿っていますが、作家や職人、問屋などは、現状を打破するための方法を模索してきました。伝統工芸の職人と国際的なデザイナーを結び付け、海外市場への展開を手助けしたいと思う人々が名乗りを上げていますし、政府も伝統産業の海外展開を後押しし、地域の経済成長を促進する方法をあらゆる角度から模索しています。

漆器、陶芸品、染織物といった工芸品は、日本のアイデンティティや歴史を語る上で欠かせない役割を担ってきました。しかし、その多くが姿を消そうとしています。伝統工芸品を博物館の展示品としてではなく、生きた文化として存続させるには、現代の日本人に合わせて伝統工芸品を再解釈し、世界市場を見据えたリブランディングやリインベンションを行う必要があります。とくに、日本の若者の共感を得ること、そして世界に向けて発信することが大切です。問題は、それをどうやって実現するか。これまでにない革新的な工芸品を作りだすのか、あるいは工芸品の魅力溢れるストーリーを通じて訴求する手法を取るのかということです。

研究に不可欠なストーリーの探求とリアリティの理解

リインベンションやリブランディングのプロジェクトを率いる人々だけでなく、伝統工芸産業とその発祥地との関連性についても考察しています。工芸品と地域振興のための「プレイス・ブランディング」を結び付け、工芸品の存在意義を支える生産的側面や特性が何であるかを理解する上で、これらの関連性を把握することは重要な気づきを得ることにつながるのです。その工芸品の産地はどこか。その産地は世界の中でどのように位置づけられているのか。これらを信憑性のある魅力的なストーリーとして伝えることができるのか。独自性や真正性を保ちながら100年先も存在し続ける工芸品であるためには、リインベンションの過程で何を残す必要があるのだろうか。私は常にこれらを問い続けながら研究に取り組んでいます。

研究の一環として、プロジェクトマネージャーや職人、公務員、バイヤーにたびたびインタビューを行い、彼らが何を大切にしているのか、どんな技術を持っているのかを把握し、需要と供給のギャップも分析します。企業間、セクター間、地域間の比較分析は、最も効果的な方法の評価や提案に役立ちます。成果に関するデータ、すなわち各プロジェクトの相対的な成功を示すデータの開発にもつながるのです。

特に、地域や企業、個人のストーリーを掘り下げる質的研究においては、客観性を保つことが大切です。伝統工芸の職人や作家に直接会うと、情熱や芸術性だけでなく、彼らが経験してきた挫折や苦労も伝わってきます。私がコンサルタントであれば、彼らの話を紡ぎ、象徴的かつ信憑性のあるブランドストーリーへと昇華させることを考えるかもしれませんが、研究者としてはエビデンスを評価し、文脈を理解することが重要です。ストーリーは、ブランドを理解し、記憶し、共感する手助けとなるのですが、より有益な政策、現実的な戦略、健全な意思決定を実現するには、研究者は現状の本質を理解することが重要です。

終わりなき発見の旅

いつの時代も学びは発見です。通勤中でも、初めて訪れる国でも、新しい経験に目を向けていれば、見えてくるものがあります。退屈だから、勇気がないからといって物事に対する関心を失わないことが大切なのです。自分でも驚くような発見があったり、自分が起こした小さな変化が周りに思いもよらない影響を与えたりすることだってあるかもしれません。

私の発見の旅は、オーストラリアの大学在学中に参加した日本への短期留学プログラムをきっかけに始まりました。文化産業とクリエイティブ産業への興味に加えて、新たな探求の道を開くことで、物づくりや作品そのものから国際ビジネスやマーケティング、政策、リサーチへと興味の対象が発展してきました。

今後は、海外にいる研究者との共同研究をさらに進めていく予定です。他国から日本を見ることで得られる新たな洞察や相対的な視点は重要です。日本特有のものは数多くありますが、各地域の中で新しいアイデアを模索するだけでなく、世界に目を向け、ユニークなストーリーや普遍的なものを探すことも重要なのです。

この一冊

『Creative Confidence: Unleashing the Creative Potential within Us All(邦題:クリエイティブ・マインドセット-想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法)』
(トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー/著 ハーパーコリンズ・パブリッシャーズ)

本書は、創造力を解き放つ方法や自分自身を探求の道へと後押しする方法を教えてくれます。本書の言葉を借りるなら「世界に一石を投じる」ために何が必要か?です。この広い世界に私たちはどのような影響を与えることができるのか。大きな変化を生み出す必要はありません。小さな波紋を起こすだけでも、貢献を果たせるのです。

アダム・ジョンズ

  • 経済学部経営学科
    教授

クイーンズランド工科大学にて文学士(メディア学)および優等経営学士(国際ビジネス)、早稲田大学にて修士(商学)、オーストラリア国立大学にて博士(公共政策)を取得。立教大学助教、同志社大学大学院ビジネス研究科准教授を経て、2018年より現職。

経営学科

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University