方程式を作り、法則を予想し、証明する「構成的ガロア理論」とは

整数論が専門の理工学部の角皆宏教授は、構成的ガロア理論の観点から方程式を作り、整数論への応用を目指しています。具体的な計算結果を観察し、法則を予想して証明する、手触りのある数学とは?

方程式をどう解くか。数学者にとって方程式の解法は、古くからの重要なテーマでした。中学校で習う2次方程式の解の公式もその成果の一つです。ところで3次、4次までの方程式には解の公式が存在するのですが、5次以上の方程式には存在しません。それを解明した一人が、19世紀前半のフランスの数学者で、当時20歳にも満たなかったエヴァリスト・ガロアです。

彼は方程式の構造を深いレベルで考察し、自ら生み出した「群」の考え方を駆使して、どんな場合に解の公式が存在するかを明らかにしました。一方、私が取り組んでいるのは、その逆、つまり、群に関する所望の条件を満たす方程式を作る「構成的ガロア理論」の研究です。

方程式の計算結果を観察し、法則を予想し、証明する

各項の係数を適当に決めれば、いくらでも方程式を作ることはできますが、それでは目指すものは得られません。そこで私は、正五角形などの図形が持つ対称性を表す群を利用し、現代数学の発展も踏まえて、さまざまな方程式を構成しています。

方程式ができたら次はその活用です。整数や有理数などの性質について研究する整数論に応用したいと考えています。方程式に含まれる変数に具体的な値を入れて、その方程式の性質を調べます。方程式に入れる値がどんな条件を満たすときに、整数論的に注目すべき性質が成り立つかを観察するのです。

観察を続けるうちに、どんな場合に面白い性質が表れるか予想できれば、今度はその法則の証明に挑みます。方程式を作り、その性質を観察して、法則を予想し、証明する。このサイクルを回すのが私の研究の進め方です。

整数は、小学校の算数以来、多くの人が馴染んでいる素朴な対象ですが、未解決の謎がたくさんあります。整数論の謎で有名なのはリーマン予想やABC予想などでしょう。しかし、このような最難関の予想は、私の手には負えません。率直に言って、理解が追いつかないのです。

予想に向かって真っ直ぐ進むのが整数論の本道だとすれば、私が進んでいるのは脇道です。整数論の本道を、高性能エンジンを積んだスポーツカーに乗って突き進むのは大事なことで、そんなことができる数学者はすごいと思います。しかし、脇道を徒歩でゆっくり進むことにも大きな価値があると考えています。

道端の花を愛でるような数学研究をしたい

草木が生い茂ったり、地形が険しかったりする道を車で走るのは難しいものです。しかし足で歩けば、周囲をじっくり探索できます。すると、これまで誰も見つけられなかったものを見つけることもある。実際、脇道にも数学的に面白い例はたくさんあります。私が構成した方程式をほかの数学者が利用して、整数論的な法則を予想し、証明することも珍しくありません。

脇道を探索した結果、重箱の隅をつつくような研究成果しか出せなかったら、また引き返して方向転換しなければなりませんが、幸い、これまでその必要はありませんでした。興味深い問題が、次から次へと出てきてくれたからです。良い脇道を進めたのだと思っています。

本道を猛スピードで進むのも、脇道をのんびり探索するのも好みの問題で、どちらも数学研究では重要です。手触りのある具体的な方程式やその計算を観察するのが好きな私は、これからも道端の花を愛でるような研究をしていくつもりです。

この一冊

『数論講義』
(J. P. セール/著 彌永健一/訳 岩波書店)

30数年前、研究室の最初のゼミで読みました。整数論では最も定評がある教科書と言ってよいでしょう。骨のある内容ですが、この本を通じて専門書の読み方を経験的に学びました。自分の研究の出発点にある思い出の本です。

角皆 宏

  • 理工学部情報理工学科
    教授

早稲田大学理工学部卒。早稲田大学理工学研究科数学専攻、博士(理学)、早稲田大学理工学部助手、上智大学理工学部助手、講師、准教授を経て、2013年より現職。

情報理工学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University