現地に行ってこそ分かる、比較政治学の魅力を学生たちに伝えたい

比較政治学のなかでも民主化をテーマに研究に取り組む、総合グローバル学部の岸川毅教授。国ごとに違う民主化のプロセス、文化の影響が大きい選挙の方法、それらを肌で感じることのできるフィールドワークの魅力などを語ってくれました。

比較政治学は比較という手法によって政治現象の本質を分析し、理論の構築を目指す学問です。私はこの分野で、民主化をテーマに研究をしています。民主化は民意が反映する民主政治に政治体制を変えることですが、民主化のプロセスは国ごとに違います。

私の専門であるメキシコでは一党支配体制が崩壊した後、選挙が繰り返されるなかで、比較的平和に民主主義体制が出来上がりました。これは台湾も同じです。その一方で、民主化がうまくいかず、内戦状態に陥ってしまった国もあります。例えばイラクやアフガニスタンの民主化がうまくいかなかったのは、アメリカが深く介入し政権打倒を急ぎ過ぎたことが一因と言えるでしょう。このように、複数の国を比較することで民主化が成功した要因や失敗した要因が浮き彫りになるのです。

現地の選挙動画を見て、他国の政治を追体験する

研究手法としてはフィールドワークを重視し、メキシコをはじめとしたラテンアメリカを中心に、対象となる国に赴いて現地の研究者から話を聞いたり資料を調査したりしています。選挙の時期に訪問することも少なくありません。同じ民主主義国家でも選挙の方法は少しずつ違い、その背景に文化の影響があることが分かります。

研究で得られた成果は論文にするだけでなく、できるだけ授業で学生たちに共有しています。現地の選挙の様子を撮影し、その映像を学生たちに見せて雰囲気を感じ取ってもらうほか、希望する学生を伴って、フィールドワークを行うこともよくあります。

日本の政治は、盛り上がらないと言われますが、実はフランスなどを除きヨーロッパの多くの国も似たようなところがあります。こうした国々は大統領制ではなく、議会によって行政権のトップが選ばれる議院内閣制である点が共通しています。他国を知ることで日本の政治の特徴が理解できるようになるのも比較政治学の魅力ですね。

グローバルな仕事をするうえで欠かせない政治の知識

商社などで国際的なビジネスに従事するためには、相手国の政治についてよく知る必要があります。NGO活動も政治の動きを知ってこそ有効な支援ができます。つまり、政治に精通していることは、ビジネスや国際協力の現場で働くうえで大きな武器になります。実際、卒業後にグローバルな仕事に就く学生も多いので、彼らが社会に出てから学んだことを役立ててもらえるように教えることを意識しています。

フィールドワークでは現地の言葉をできるだけ使うようにしています。私自身は民主主義による政治が好ましいと考えており、そうでない体制の国で困難を抱える人と話すと苦しくなることがあります。国の政治体制とそこで生活する人の考え方はイコールではない。こうしたことを伝えていくことも、私の役割だと思っています。

現在はラテンアメリカ各国における中国の影響を、比較の観点から調べる研究にも注力しています。10人ほどの研究者による共同研究で、現地にも行く予定です。多くの分野から注目されているテーマでもあり、有意義な研究にしたいと意気込んでいます。

この一冊

『定本 想像の共同体』
(ベネディクト・アンダーソン/著 白石隆・白石さや/訳 書籍工房早山)

国家の形成に必要な人々の共通の意識や愛国心の背景に、近代化やメディアの発展があることを指摘した社会学者の著書です。大学生の時に読み、「なるほど!」と納得したことを覚えています。社会科学の魅力を知るきっかけとなった、忘れられない一冊でもあります。

岸川 毅

  • 総合グローバル学部総合グローバル学科
    教授

上智大学外国語学部イスパニア語学科卒、同大学院外国語学研究科国際関係論専攻博士後期課程修了。上智大学イベロアメリカ研究所助手、メキシコ大学院大学客員研究員、上智大学外国語学部講師・助教授・教授を経て、2014年より現職。

総合グローバル学科

※この記事の内容は、2023年6月時点のものです

上智大学 Sophia University