対話を通して、自ら思考・発見し判断できる新しい学びの場をつくる

教育学を専門とし、新しい教育や学び、学校のあり方を研究する総合人間科学部の上野正道教授。日本や東アジア諸国では、産業構造や価値観の変化で、今までとは違う新しい教育が求められています。これからの教育とは?

グローバル化や多文化共生社会が進む中で、日本の教育環境は大きく変わりました。私の専門である教育学では、新しい教育、学校での学びをどうつくっていくかが大きな課題になっています。そのために、学校での学びのこれまでとこれからについて、教育の思想と実践と政策をつなぎながら多角的に研究しています。

もともとは、アメリカの民主主義と教育の思想を研究テーマとしていたのですが、現在は日本と東アジアやヨーロッパの思想と実践も含め、相互に比較したり、学校を訪問したりすることを通して、今日の教育課題にアプローチしています。

競争型・詰め込み型の教育をどう変えていけるか

今まで、日本など東アジアの教育は競争型で詰め込み型の学びが中心でした。しかし、これでは子どもが自ら学ぶ力は育成できません。そこで、アメリカの哲学者であるデューイが提唱した教育の原点であるアクティブラーニングや、協働型・対話型、プロジェクト型・問題解決型の学びに加えて、論理的・批判的に考えることや物事をより深く捉え考える学びをどのように導入したらいいのかを研究しています。

というのも、国際的な学力テスト(たとえば、OECDが実施する生徒の学習到達度調査など)で、日本も含めたアジアの国や地域は上位を独占しています。ところが、それを突き動かす主体的な学習力、学びの態度や意欲、発信力、プレゼンテーション力、議論の力、批判的思考力などについては、日本や東アジアの子どもは多くの課題があるという結果が出ています。

そこで、欧米やアジアの教育の思想や実践にもとづいて、子ども一人ひとりの主体的な学習力や意欲をいかに引き出したらいいのか、今までの教育のあり方を見直しこれからの学びをどうつくっていくのかを研究しています。フォーカスしているテーマは、「より質の高い教育」「誰一人取り残さず」「よりよい人生」の3つ。これらを実現する考え方やビジョンを探っています。

先生や子どもとの対話を通じて新しい教育を考える

新しい教育や学校のあり方を探るため、教育現場に行き、先生と一緒に学ぶ環境をつくる活動や共同研究を行っています。私も講師やアドバイザーとして参加し、先生と一緒にカリキュラムを作成したり、学び方を考えたりしているのです。

たとえば、ある私立小学校では宿題など一切ない自由教育を、先生方と一緒に考えています。さらに、10〜15年後の教育を考えて、教科の枠組みを取り払い、自ら課題を設定し主体的に答えを導く探究型学習や問題の解決を通して学習するプロジェクト型学習にも取り組んでいます。

自分自身で学び、思考・発見し、判断して課題に取り組めば、皆とは違う考え方で成果を得ることができます。同じ知識をインプットするよりも、自分の頭を使って表現することや、社会的な課題を解決することこそが、よりよい人生、よりよい社会につながると思うのです。 もちろん、これは簡単なことではありません。事象の中の課題に気づくことから始まりますが、その方法や解決策に決まった答えはありません。ゼロから一をつくっていく思考や探究、対話、創造性が必要です。同様に、子どもを育成するための教育に絶対的な答えはありません。しかし、何らかの答えを求めて問い続けていくことが面白いのです。

この一冊

『学校と社会・子どもとカリキュラム』
(ジョン・デューイ/著 講談社学術文庫)

今日のアクティブラーニング、主体的学び、探究的学び、対話的学び、問題解決的学習、民主主義教育、学校と社会の連携などを考える上での原点となる一冊。教育を通して、よりよい生き方を学ぶことで、よりよい社会をつくっていく、そのヒントが詰まっています。

上野 正道

  • 総合人間科学部教育学科
    教授

上智大学文学部教育学科卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。大東文化大学文学部准教授、教授などを経て、2018年より現職。

教育学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University