経済学部の竹田陽介教授の専門は、金融政策です。日本銀行総裁を筆頭とする9名の政策委員によって決められる、日本の金融政策。金融政策に求められる制度的進化の必要性に関して、研究の指針を語っています。
我が国の経済政策は、政府が景気の安定化や所得の再分配を目的として行う財政政策、国の中央銀行すなわち日本銀行が物価の安定と雇用水準の維持を主な目的として行う金融政策という二つの政策で構成されています。金融政策の方針を決めるのは、日本銀行の総裁と副総裁、一般企業などから選ばれた審議委員の合計9名で構成される、政策委員会と呼ばれる機関です。
私の研究テーマの一つは、日本の金融政策やそれに伴う制度を進化させる方法を考えることです。日本の金融政策は、金融の専門家が合議という民主主義的な方法で方針を決めている点は評価できるものの、議事録の公表が10年後であったり、政策委員の任命に国民審査の手続きがなかったりと、やや閉じられた世界で決められている印象があるのも事実。時代の変化や民意を踏まえた政策を実施するためには、私たち学者など外部の意見も取り入れながら適宜変革を加える必要があります。
余剰金を前提とした国庫納付金制度は、変革の余地あり
私が近い将来改革の必要性が出てくると考えているのが、国庫納付金の制度です。現在、日本銀行は、得た利益から必要経費などを差し引いた余剰金を、毎年国庫納付金として財務省に納めています。この制度は日本銀行に余剰金が生じることを前提に考えられているので、今後何らかの理由で日本銀行が保有する金融債券が値崩れし、赤字が出た際には、当然納付金を納めることは難しくなるでしょう。
そのようなことが起こった場合、現行の制度では日本銀行の独立性を維持するという観点から、政府の直接的な関与は禁止されていますが、もし、財務省が損失を補填することが可能になれば、日本銀行は金融市場の活性化に役立つと思う金融商品、資産に対して、今よりも思い切った購入をすることも可能になるはずです。そのような改革が行われたとすれば、果たしてどの程度のメリットがもたらされるのか、法律や制度は、どのように整備すればいいのか。日々の研究では、そういった課題についても考えています。
突拍子もないアイデアも、時代が変われば現実になる
経済学者として大切しているのは、いろいろな分野の人と会い、話を聞く機会を持つことです。研究内容は論文や著書を読めば分かりますが、研究への熱意や真剣さは、直接会ってこそ分かるもの。情熱を持って研究に取り組んでいる人との出会いは大きな刺激になりますし、新しい情報に触れ、自分自身の思考の幅を広げることにもつながります。
長年研究に携わっていても、経済の未来を予測することは容易ではありません。一見突拍子もないアイデアも、時代が変われば現実になることだってある。このままグローバル化が進めば、世界中の金融市場をつなげる「世界の中央銀行」ができる日が来るかもしれません。そうなったときに、通貨制度はどのように変貌するのか、国家間の力関係はどのように反映されるのか。そんな考えに思いを巡らせる時間も、楽しいものです。よく研究者仲間から「どうしたらそんなユニークなことを思いつくのか」と言われるのですが、これは私にとって何よりの褒め言葉だと思っています。
この一冊
『Micromotives and Macrobehavior』
(Thomas C. Schelling著,W.W.Norton & Company,1978)
著者のシェリングは、人種による住み分けのメカニズムを、オセロの駒を使って可視化した経済学者です。大学時代に本書を読み、マクロ経済学に興味を持ったことが、学者を志すきっかけになりました。
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竹田 陽介
- 経済学部経済学科
教授
- 経済学部経済学科
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東京大学経済学部経済学科卒、同大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。修士(経済学)。ラトガース大学客員助教授、イェール大学客員研究員、上智大学経済学部助教授などを経て、2005年より現職。2013年度毎日新聞エコノミスト賞(矢嶋康次と)共同受賞。
- 経済学科
※この記事の内容は、2022年10月時点のものです