エアコンや冷蔵庫といった身近な家電からITシステム、金融まで、私たちの生活のありとあらゆる場面で制御工学の技術が使われています。理工学部の曹文静准教授は、制御工学を応用してさまざまな社会課題の解決を目指しています。
制御工学とは、機械を思い通りに動かすための仕組みを考える学問です。モノがどういった原理原則で動くのかを確認して数式で表現し、その数式をもとに制御の仕組みを設計。実際にその仕組みで制御できるかどうかをシミュレーションや実物を使った実験で検証します。
私は制御工学の中でも、ロボットの自律走行や自動車の制御を専門としています。ロボットの分野では、自動運転用センサーを搭載した電動車いすを自律走行させる研究を進めています。現時点で、目的地を設定すると自動的に経路を設計して、その経路に沿って障害物を避けながら目的地まで走ることができるようになりました。次のステップは移動する障害物に対応できるようにすることを目標としています。将来的には介護施設、一般道路、駅やショッピングセンターなどでの応用が目標で、体の不自由な方の移動を補助できればと考えています。
高速道路の自動合流、緊急車両の優先走行を考える
自動車に関する私の研究テーマは自動運転車の挙動制御とパワートレイン(駆動力を伝達する部品)の制御です。挙動制御の分野では、高速道路の自動合流について取り組んでいます。高速道路に無理やり合流しようとすると、本線を走る前後の車が大幅に加速または減速することになりますが、交通量が多い場合は激しい加減速によって渋滞が引き起こされてしまいます。そうした事態を回避するために、合流車と本線を走る車を同時に制御し、ゆるやかな加減速で合流車のために間隔を開けるシステムを構築しています。
もちろん、すべての車が自動運転車であれば集中的に制御できますが、一部の車しか自動運転できない場合はどうするか、加減速の性能が違うエンジン駆動車と電気自動車が混在している場合はどうするか。あらゆる条件に合わせた挙動制御を考える必要があります。
また、この研究を応用して、救急車や消防車といった緊急車両を優先的に走行させるシステムをつくれないかと模索しています。道が渋滞していて、緊急車両がアラームを鳴らしてもなかなか前に進めない状況を見ることがありますが、すべての車の動きを自動制御して、緊急車両を1分1秒でも早く通せば人命救助につながります。
自分の興味のあることに挑戦して社会に貢献したい
いま学生たちと取り組んでいる課題の一つが、電気自動車を使ったエネルギー供給システムの構築です。地震などの被災地や過疎地など、隔離された場所にある家庭にどうやって電気を供給するのか。そうした問題に電気自動車が使えるのではないかと考えています。
電気自動車はそれ自体がバッテリーでもあるので、移動するバッテリーにもなります。充電ステーションで充電して走って電力を運び、電気を必要とする家庭に供給することができます。ただし、バッテリーには充電容量の限界があるので、効率よく各家庭に充電する経路計画が重要になります。道中のバッテリー消費を最小限にとどめるために最短距離を走行することはもちろんですが、道路の勾配や渋滞も考慮しなければなりません。また、家庭の世帯構成によって電気の需要量が異なるため、それに合わせて供給のしかたも違ってきます。さまざまな条件を考慮しながらできるだけ多くの家庭に電力を供給できるよう研究を進めています。
今自分が興味を持ったことに挑戦して社会に貢献したいというのが、どの課題においても共通する思いです。学生も私もやる気が出てくるような、この世界にとって価値のある研究にこれからも取り組んでいきたいですね。
この一冊
『愛すること、生きること』
(M・スコット・ペック/著 氏原寛、矢野隆子/訳 創元社)
精神科医の著者が臨床現場で出合ったさまざまな悩みと、それに対する心理療法を多くの事例とともに紹介した一冊。何かに悩むたびにページをめくり、私の人生に大きな影響を与えてくれました。
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曹 文静
- 理工学部機能創造理工学科
准教授
- 理工学部機能創造理工学科
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天津大学電気工程与自動化学部電気工程及びその自動化学科卒、同大学電気工程研究科博士前期課程修了。修士(工学)。九州大学大学院統合新領域学府オートモーティブサイエンス専攻博士後期課程修了。学術博士(工学)。日産自動車株式会社パワートレイン技術開発本部パワートレイン先行技術開発部、上智大学理工学部機能創造理工学科助教などを経て、2023年より現職。
- 機能創造理工学科
※この記事の内容は、2023年10月時点のものです