地域包括ケアシステムやチーム医療に必要な、看護職のマネジメント能力とは

市町村の保健師が取り組む地域活動の特徴をリサーチし、現代の看護職に必要なマネジメント能力を探る看護学科の両羽美穂子教授。意思決定や課題解決能力を土台としたマネジメント能力の具体的内容やその必要性とは?

人や物、お金や情報などの経営資源を活用して組織をまとめる活動のことをマネジメント活動といいます。私は看護職のマネジメント活動についての研究をしながら、看護職にどのようなマネジメント能力が必要とされているかを探っています。

きっかけは20年ほど前に出会った機能看護学という新しい学問でした。看護職一人ひとりが質の高い看護をめざすための学問で、その中でもマネジメントのあり方に焦点が当てられていたのです。そこで当時、私の研究対象であった保健師に焦点をあて、彼らのマネジメントの在り方についてより深く調べてみたいと考えました。地域の行政機関で働く保健師は、看護職として住民の健康管理や保健指導を担うだけでなく、地域住民が行う地域づくりや町おこしのサポートにも従事しています。その中でどのようなマネジメント能力を発揮しているのかを知りたいと思ったのです。

保健師のサポートにより、休止中の地域活動が再開

最初の研究では、地域の行政機関で働く経験10年以上のベテランの保健師たちにインタビューを行いました。その結果、保健師たちは、「当事者のニーズを確認し、理解を得ながら事業化する」「住民の集まりを健康教育の機会として活用する」「他機関などと連携しながら地域住民の支えとなる人材を育成する」など、個々のマネジメント能力を発揮しながら、地域住民の健康活動をサポートしていることがわかりました。こうした保健師による活動のノウハウが、学術的な研究活動の対象となり、言語化されることは、看護の未来にとって重要なこと。調査を重ねデータとしてとりまとめ、論文として発表した際には「看護の世界に少しは貢献できたのではないか」とうれしく思いました。

さらに現場で保健師の活動に加わることで、彼らのマネジメント活動の成果を目の当たりにすることができました。ある地域では厚生労働省が推進する食生活改善推進員の活動が数年間、ほぼ休止状態になっていました。食生活改善推進員は食育を学んだボランティアの委員で構成され、高齢者などにフレイル(高齢者の虚弱)予防の食事や、生活習慣病につながる食事の改善を行なう活動をします。「活動を再開したいが、その方法がわからない」という委員の要望を受け、マネジメントの考え方を軸に保健師がサポートに入ったところ、これがうまくいき、企画したイベントも大盛況となりました。活動をサポートする中で保健師は委員たちに「どうすれば組織がうまく動くか」や、「活動で何を目指すのか」といった課題を提示し、話し合いの場を設けるなどの施策が取られていたのです。保健師が専門を生かしてボランティアをリードするのは簡単ですが、それでは活動が長続きしないため、委員を活動の主体とし、目指す姿を明確にし、戦略的に関わったことが功を奏したと言えるでしょう。

看護職一人ひとりが組織のトップと同じ視点に立つこと

看護職のマネジメントでは看護師長など管理職を対象にしたものが知られています。しかし、私は研究を続ける中で、一般の看護職一人ひとりに、組織のトップと同等の視点に立って意思決定をしたり、課題解決やサービスを提供したりするマネジメント能力が必要だと考えています。こうした能力は高齢化社会の中で構築が進む地域包括ケアシステムや、チーム医療が普及している医療現場において大いに役立つでしょう。

今後の目標はこのマネジメント能力を看護職が身に着けるための方法を構築し、マニュアルや教科書を作ること。将来、看護職に就く学生たちに学んでもらい、社会に出た時に現場で役立つ知識と実践を提供することを目指しています。

この一冊

『知の愉しみ 知の力』
(白川静 渡部昇一/共著  致知出版社)

東洋学の大家、白川静氏と評論家で上智大学名誉教授の渡辺昇一氏が知と教養について語る対談本です。大学の教員になりたての頃、学生に何を伝えるべきかを模索するなか、教養についての考えを深めたいと手に取りました。

両羽 美穂子

  • 総合人間科学部看護学科
    教授

千葉大学看護学部看護学科卒、同大学院研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。岐阜市保健師、岐阜県立看護大学看護学部看護学科助手、講師、准教授、教授を経て、2021年度より現職。

看護学科

※この記事の内容は、2022年12月時点のものです

上智大学 Sophia University