超高速通信の要となる「光回路」で、情報化社会の新たな基盤を作る

光通信を専門とする理工学部の高橋浩教授は、光回路を使い、次世代の通信技術の研究をしています。光を電気に変換せず光のまま処理する新たなデバイス、光回路。その魅力と、大容量・超高速の通信がもたらす未来について語っています。

現代の情報化社会で求められているのは、通信量の急増に対応する技術です。モバイル通信規格の5Gが普及しつつありますが、次の世代の6Gでは、技術面でもコスト面でもクリアすべきことがたくさんあります。この課題を解決するため、長年取り組んできた光を使った信号処理や光ファイバ通信技術をモバイルネットワークに生かそうと研究しています。

一般に光通信ではレーザーの点滅で「0」と「1」のデジタル信号を表し、その列を光ファイバーを通して送ります。このとき異なる波長(色)の光を混ぜて一緒に送れば情報を増やせる。例えば1波長あたり毎秒10ギガビット送れるとすると、80波長なら毎秒800ギガビット送ることができます。これが波長多重方式です。

私は本学に着任する前、NTTの研究所で、複数の波長が混ざった光を分離するためのデバイスであるアレイ導波路回折格子の開発に携わりました。これは後に実用化され、現在、都市間や大陸間をつなぐネットワークなどで利用されています。

低コスト、省エネの次世代デバイス「光回路」

しかし、波長の多重化にも限界があります。そのため近年、多値変調方式が導入されています。光など振動する波は、同じ波長でも進行するタイミングや方向はさまざまで、その違いを表すのが位相です。多値変調では情報を多数の位相値で表現し、一つの波長に、つまり一つの信号に含まれる情報量を増やして送信します。

受信側では、光信号を電気信号に変換したのちLSI(大規模集積回路)を使って光位相の値に応じたデジタル情報を復元しますが、その際の計算量が多く消費電力が大きい問題があります。

そこで、LSIの計算量を減らし受信機を低コスト・低消費電力にするため、受信する直前に光を光回路で事前に処理することでLSIの負担を軽減することが可能です。私はその光回路の研究に取り組んでいます。微細加工技術でシリコン基板の表面に形成されたガラス膜を刻み回路を構成します。回路構成の工夫次第で通過する光の状態を操作することができますが、干渉や回折といった光の性質や、通信の基本原理などをいかに深く理解しているかが光回路の研究では重要になるのです。光回路の構成自体はLSIに比べてはるかに単純で、理論から導いたアイデアを実験ですぐに確認できるところは、この研究の面白さの一つです。

大容量、超高速通信が実現する未来社会

光通信による大容量の超高速通信が実現すると、毎日の生活が大きく様変わりします。例えば、遠方に住む祖父母の家と孫の一家をインターネットでつなぎ、壁一面ほどの大スクリーンに互いの部屋の様子をリアルタイムで映し、音声も共有することで、あたかも一緒に住んでいるような感覚を生み出すといった応用も考えられています。今はまだごく一部の専門家しか使えないAIを活用した高度な情報システムを一般の方々もやがて使えるようになるでしょう。また、バーチャル観光のリアリティーが向上して、本当にそこに行って来たという感覚も得られるようになるかもしれません。

通信技術は現代の情報化社会に欠かせません。次世代の基盤となるような光回路を生み出したいですね。

この一冊

『Introduction to Fourier Optics Third Edition』
(Joseph W. Goodman/著 Roberts & Company Publishers)

大学4年のゼミで読んだ光学の教科書です。当時の研究対象は超音波だったので、光学の勉強には苦労しましたが、後に光回路の研究を始めた時、この本が役立ちました。改版を重ねる名著で、第3版では私の研究も取り上げられています。

高橋 浩

  • 理工学部情報理工学科
    教授

1986年東北大学工学部卒、1988年同大学院工学研究科博士前期課程修了。同年NTT研究所入社。1997年博士(工学)学位取得。同所の研究グループリーダーおよび特別研究員を歴任後、2013年より上智大学。

情報理工学科

※この記事の内容は、2022年5月時点のものです

上智大学 Sophia University