デジタルツールを駆使したネットワーク研究で、日本史を立体的に分析する

国際教養学部国際教養学科
教授
ベティーナ・グラムリヒ=オカ

江戸時代を中心に、ジェンダーや経済思想、文化などを研究する国際教養学部のベティーナ・グラムリヒ=オカ教授。デジタルツールを活用する研究手法を用いることで、歴史研究の可能性は大きく広がっていると語ります。

日本の近世史、とくに女性たちについて研究しています。前近代の日本史といえば、男性の人物像や人間関係の研究が多いのですが、私はより包括的な視点が必要だと考え、人物研究では、その家族の女性たちに注目しています。『日本外史』などを書いた江戸後期の儒学者・頼山陽の家族についての研究では、彼の父親の頼春水、母親の静、それぞれが書いた日記をもとに、毎日の暮らしや人間関係を分析しています。2人の日記からは、膨大な新情報が明らかになっており、当時への理解がさらに深まります。さらにデジタルツールを活用すると、家族を取り巻く様々な出来事の推移を、動的に可視化することもできます。

こうした歴史研究において、デジタルツールを使った分析は今や欠かせません。最新技術やイノベーションの活用により、歴史学の分野でも、新たな発見や新しい問いが生まれています。私の授業では、学生たちにはデジタルツールを積極的に活用するようにすすめています。学生たちのプロジェクトは私のウェブサイトで公開し、大学での活動の一つとして紹介しています。

誰もが活用できる日本史の人名データベース作り

2010年から始まった大型プロジェクトが「日本の人名データベース(Japan Biographical Database=JBDB)」です。JBDBは日本史に関する唯一のオンライン・データベースで、ハーバード大学による大規模な中国歴代人物データベースがモデルとしています。現在、日本史上の人物1万3000人ほどのデータが登録されており、日々、情報を追加・更新中です。(https://jbdb.jp を参照)

目標は、「日本の人名データベース」を、人物研究およびソーシャルネットワーク分析もできる包括的なデータベースとして整備すること。例えば、ある人物を検索すると、その人の親類関係や人間関係が時代や場所によってどのように変化したかを可視化することができるようにするのです。頼家に特化したコアプロジェクトに加え、さまざまな研究プロジェクトの協働によって、データの充実に努めています。このデータベースは、世界中の研究者はもちろん、歴史に関心を持つすべての人にとって役立つと信じています。

世界中の日本研究者をつなぐ学術誌への誇り

2016年からは、日本研究で世界トップレベルの英文学術誌である「モニュメンタ・ニポニカ」の編集長も務めています。これは上智大学が1938年から発行を続けているジャーナルで、内容は日本の歴史、文学、美術史、宗教、思想、社会など幅広い分野に及びます。この雑誌に論文が掲載されることは、学術界での高い評価につながっています。

論文の質の高さはもちろん、一次資料である文献や資料の翻訳に加え、毎号多くの書評が掲載されていることも、このジャーナルが世界中の研究者から支持される理由です。最近掲載した論文の中には、江戸城で将軍に供されていた毎日の献立を扱ったものもありました。当時の日常生活を垣間見ることができ、大変興味深いものでしたね。日本語の著作や資料を英訳することは、日本研究の発展に貢献すると同時に、一部の限られた専門家に加え、読者層を広く一般まで広げるという意味で、それは非常に意義深いものだと考えています。

この一冊

『Monumenta Nipponica』 
ベティーナ・グラムリヒ=オカ、他/編、上智大学

『Monumenta Nipponica(モニュメンタ・ニポニカ)』は、1938年に創刊されて以来、活発な学術的意見交換の場を提供し続けてきた世界でも有数の日本研究学術雑誌。私が上智大学院で師事したケイト・ワイルドマン・ナカイ先生をはじめ、先輩研究者たちの志を継いでいかなくてはと身が引き締まります。

ベティーナ・グラムリヒ=オカ

  • 国際教養学部国際教養学科
    教授

上智大学で修士課程修了。ドイツのテュービンゲン大学で博士課程修了。米国コロンビア大学の博士研究員、同ウェズリアン大学の客員教授、テュービンゲン大学での研究職を経て、2009年より現職。専門は江戸時代の日本史。

国際教養学科

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University