国際関係論および政治学を専門とする外国語学部の湯浅剛教授は、旧ソ連諸国の安全保障、政治変動、地域機構について研究しています。多国間の問題や地域の特性を知ることで見えてくる平和構築への手立てとは?
私の専門領域は国際関係論および政治学です。1991年、かつてのソビエト社会主義共和国連邦は解体され、15の独立国家となりました。私は、その旧ソ連を中心とした国々の安全保障、政治変動、地域機構について関心があり、研究を行っています。
旧ソ連は、各地の基幹的な民族(ネイション)の名を冠した共和国によって構成された連邦国家でしたが、その大半の領域を現在のロシアが占めていました。それ以外に、ロシア人と同じスラブ系民族が基幹民族であったウクライナやベラルーシや、宗教や文化でスラブ系とは異なる系統の民族がいる地域もありました。
中央アジア5国とロシアはいまだ微妙な関係にある
私が長年研究しているのは、中央アジア5国(カザフスタン、キルギス共和国、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン)です。これらは19世紀以降、ロシア帝国の統治下に組み込まれ、その後、ソ連の一部として政治的に支配されてきました。テュルク系、ペルシャ系民族が多く、彼らの信仰はイスラームです。アジアの色合いが濃く、ロシアとは異なる背景をもっている地域ですが、長年の支配の結果、今なおロシアの影響は強く、ロシア語も公式の場や都市部では共通語として機能しています。つまり、文化的には離れているけれど、政治的・社会的にはロシアとの繋がりが切り離せないでいる地域なのです。
これらの国々とロシアは現在も、安全保障の分野で微妙な関係にあります。例えば、中央アジアでもロシアと国境を接しているカザフスタンでは、2022年1月、国内の騒乱を収束するため、一時的ではありましたが、ロシアが主導する「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊を国内に受け入れました。このように、中央アジアの指導者たちは、ロシアによるさまざまな介入の可能性を想定してロシアとかかわっているといえます。
変化する戦争形態に対応した平和構築のための手立てを研究したい
以前、防衛省の研究機関である防衛研究所で働いていた頃から、私はそうしたロシアと中央アジアの安全保障に関する研究を深め、情勢のフォローを行っていました。研究をする際には、現地に足を運んだり、統計データを精査したりするのはもちろん、新聞、TV、SNSなど、さまざまなメディアで発信されている公開情報をつぶさに読んでいくことを大切にしています。日本に比べて政治的な自由度が低い国のなかでも、政府や指導者に対し、批判的な意見を表明している人は意外といるものです。それらの情報を自分なりに咀嚼して本質を見極め、現状把握や地域情勢を分析していくのです。
これらの国が平和に、より安全に暮らしていくためには、どんな手立てが必要なのか。何が問題になっているのか。地域の特性を踏まえた上で平和構築のための道筋を考える。それが私の一番の研究課題です。
国と国との関係を良好に保ち、人々が平和に暮らすためには、抑止力としての軍事力が重要だとも考えます。しかし、それは諸刃の剣。抑止力として核兵器を扱っているはずがエスカレートし、実戦で使用されかねない危険性もはらんでいます。平和利用のための原子力政策とはどうあるべきか。その研究も続けていきたいですね。また、シベリア抑留問題や1970年代以降のソ連のアフガニスタン侵攻問題についても研究を進めています。政府や専門家の方々と時に力を合わせながら、「不偏不党」の精神で今後も研究を行っていきたいと思っています。
この一冊
『21世紀は警告する1 祖国喪失 国家が“破産”するとき』
(NHK取材班/著 NHK出版)
NHKで放映された番組をまとめた本です。いきなり祖国がなくなり難民になってしまうなど、さまざまな悲劇が実際に世界で起こっていることを知り、高校生ながら衝撃を受けました。現在の研究の原点となった本です。
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湯浅 剛
- 外国語学部ロシア語学科
教授
- 外国語学部ロシア語学科
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上智大学外国語学部ロシア語学科卒、同大学院外国語学研究科博士後期課程満期退学。防衛省防衛研究所主任研究官、広島市立大学広島平和研究所教授などを経て、2019年より現職。
- ロシア語学科
※この記事の内容は、2022年6月時点のものです