工学的アプローチで探る生産物流システムの最適解。経営工学は「役立ってなんぼ」

経営工学が専門の理工学部の伊呂原隆教授は、ビッグデータを使って製造業や物流業の経営課題を解決する方法を研究しています。グローバル化や気候変動など、課題山積という経営工学の魅力とは?

企業経営に生じる課題を、工学的なアプローチで解決する学問。それが経営工学です。私は主に生産物流システムを対象にした研究を行なっています。

製造業における「技術」は、大きく分けて「固有技術」と「管理技術」の2つがあります。例えば自動車メーカーの場合、エンジンやブレーキの性能を高める技術が固有技術に相当しますが、世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ1(F1)」で優勝できる車を設計できるような高い固有技術があっても、それだけでは企業経営は成り立ちません。

企業経営を継続するためには、年間数百万台の車を作って、売って、利益を上げなければならないわけで、そのためには自動車という製品の設計、部品の調達や生産、その先にある販売、流通、さらには使用済み製品の回収、分解、部品の再利用なども含めたシステム全体をデザインする技術も必要になる。その技術が管理技術であり、経営工学は企業が抱えるそれらの課題解決を通じて、管理技術を向上させるという役割を担っています。

広がる選択肢、尽きない課題

企業のグローバル化により、原材料の調達先や工場/物流センター建設地の選択肢は世界中に広がりました。これらの選択肢に、コスト削減の方法、生産開始から終了までのリードタイム、工場のある国で政変が起きるリスク、出来上がった製品の輸送手段といったさまざまな要素をかけ合わせると、さらに膨大な数の選択肢ができあがります。

その中から総合的に考えて最も効率のよい一手を選び取り、企業にとって最適な生産物流システムを設計する。そんな複雑なプロセスの実行を可能にするのは、ベテラン社員の経験や直感ではなく、ビッグデータの収集とそのデータを使った数理最適化といった工学的なアプローチなのです。

大学に在籍する学者である以上、従来研究よりも優れた新しい理論や技術を構築し、その研究成果を学会論文誌で公開し続けていくことが重要なことは言うまでもありません。しかしながら、経営工学は「役立ってなんぼ」というのが私の持論。机上の空論とならないためにも、これまでに数多くの企業と積極的に共同研究を行い、現場の方々と熱い議論を繰り返しながら、真に役立つ経営工学となることを目指してきました。

大気汚染の問題も経営工学で改善

工学的な課題解決のアプローチは、企業経営以外にも役立ちます。2018年からの3年間、ある地方公共団体と、「道路渋滞が引き起こす大気汚染の改善」をテーマに共同研究を行いました。

車を高速道路に迂回させれば、一般道の渋滞やそのエリアのNOx、CO2は削減できますが、迂回する車が多すぎれば今度は高速が渋滞してしまう。そんな問題も、最適化や数理シミュレーションといった経営工学の手法を使えば、迂回すべき車の割合やその結果削減できるNOxの量を具体的な数値で示すことができます。

自動車がガソリン車からハイブリッド車、EVへとシフトしてきたように、時代が変われば作られるモノが変わり、そこにまた新しい課題が生まれます。先進的な企業の新しい取り組みは常にキャッチアップしたいし、本当にその方法が正しいのかの検証もしっかりしていきたい。研究のタネが尽きないのは、私にとっては嬉しいこと。課題山積、望むところです。

この一冊

『学問への憧憬』
(竹内均/著 佼成出版社)

科学雑誌『Newton』の初代編集長として知られる物理学者、竹内均氏のエッセイです。福井県出身の著者が抱く学問への真摯な思いは、田舎町で育ち、どこか学ぶことへの気後れがあった私に勇気を与えてくれました。

伊呂原 隆

  • 理工学部情報理工学科
    教授

早稲田大学理工学部工業経営学科(現、創造理工学部経営システム工学科)卒、同理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部助手、上智大学理工学部准教授などを経て、2010年より現職

情報理工学科

※この記事の内容は、2022年4月時点のものです

上智大学 Sophia University