都道府県版ジェンダー・ギャップ指数試算も。データで多様な社会課題を可視化

経済学部経済学科 
准教授 
竹内 明香

統計学を専門とする経済学部の竹内明香准教授の研究領域は、株価の収益予測から都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の試算までと広範に渡ります。データを駆使してその意味を読み解く普遍的な学問である統計学の可能性について語ります。

統計学とは、何らかのデータの特性を調べたり、複数のデータの関連を調べる学問です。この分野では新しいデータの作成も行います。例えば、私たちが今、取り組んでいる都道府県版ジェンダー・ギャップ指数では、国がオープンにしている統計情報を複数用いて指数を作成しています。

データを加工する計算方法も統計学の役割の一つです。平均値からの散らばりを標準偏差と呼びます。都道府県版ジェンダーギャップ指数では、複数のデータを合算して指数を算出するのですが、標準偏差が大きいデータほど指数への影響が大きくなってしまいます。そこで、各統計情報の指数への影響度を対等に扱うために、散らばりを補正できる加重平均をします。

私の主な研究領域は計量経済学で、経済モデルの妥当性を回帰分析などの手法を用いて実証分析します。データサイエンスがますます重視される流れのなかで、経済学科では統計学がほぼ全ての学生が履修する科目になっています。私のゼミでは、コンビニの売上分析やサッカーの勝敗予測、競馬など、身近なトピックについて分析する学生もいます。データサイエンスの重要性が増す現代において、統計学はますます普遍的な学問になると思います。

高学歴の女性の就業率は、地方都市より首都圏の方が低い

出産前は株価の収益予測を主に研究していましたが、出産後に経営学科の新井範子教授、細萱伸子准教授からの声がけで、女性の就業研究にも携わるようになりました。出産などのライフイベントが女性の就業にどのような影響を与えるかを調べるのですが、私自身、妊娠・出産で時間や体力が著しく減少した実感があったため、興味がありました。

国の就業構造基本調査から、家族構成や学歴なども分かる数十万人の匿名データを別途申請して取得し、「高学歴の女性ほど就業率は高くなるだろう」という仮説に基づいて調査を開始しました。

結果は仮説を裏切り、「子育て中の高学歴の女性のフルタイム就業率は、関西も関東も首都圏近郊ほど低い」というものでした。地方都市での就業率は高かったため、大都市圏独特の問題があるのでは、と感じました。あえて働かないのか、働けないのかはまだ分かりませんが、人的資源としてはとてももったいない状況です。

ジェンダーギャップ指数から見える女性就業率問題

現在は上記の調査結果を参考にしつつ、法学部の三浦まり教授、共同通信社と合同で都道府県版ジェンダー・ギャップ指数研究を主に行っています。2021年3月に世界経済フォーラムが発表した男女平等度を示すジェンダーギャップ指数で、日本は世界最低レベルの120位でした。

都道府県版を算出することで、各自治体が課題を自分ごととして捉えることができるのではと思い、この取り組みを始めました。経済・政治・行政・教育の四つの分野28項目中各分野で6〜9種の統計情報を利用した結果、大都市圏と地方都市の女性就業率問題はより明確になり、首都圏近郊の女性就業率は減少傾向にあることが分かりました。この研究によって、「地方都市の方が女性の活躍が阻まれるのでは?」というイメージは覆りました。ちなみに、女性起業家が最も多くジェンダー・ギャップ指数が1位だったのは沖縄県です。

一方、この結果で見落としてはいけないのが、男性の給与が低くなるほど女性の就業率も対等になる点です。大都市圏と地方都市の格差についても可視化されたわけです。多様性は男女間だけではありません。指数が政策に活用されれば、外国人労働者などさまざまな社会課題の解決にも貢献できるのではないでしょうか。

この一冊

『統計学でリスクと向き合う』
(宮川公男/著 東洋経済新報社)

偏差値やダウ平均株価、コンビニの仕入れデータなど、身近な実例が豊富に紹介されていて統計学の使い方がよく分かります。直感的に思っていることを数字に置き換えるとこんな違いが見える、ということが実感できる一冊です。

竹内 明香

  • 経済学部経済学科 
    准教授

東京都立大学経済学部経済学科卒、一橋大学経済研究科博士課程修了。博士(経済学)。日本銀行金融研究所エコノミスト、早稲田大学商学学術院助教を経て、2012年より上智大学経済学部助教、2014年より現職。

経済学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University