国内外の企業で経営戦略に携わってきた経済学部の具滋承教授は、実務経験に基づく国際的な視点から、企業や組織の変化と成長のプロセスについて研究しています。具教授が考える経営学の本質とは?
私は14年間、日本や韓国の企業で経営戦略やM&A(企業の合併や買収)に携わってきましたが、現場での学びや仮説を学問的に体系立てて捉え直したいという知的好奇心から、研究の道へ進みました。
企業の成功や失敗には、共通するパターンや法則が見いだされることがあります。データや実証的な根拠をもとにこうした知見を導き出し、ビジネスの現場で活用することが研究目的の一つです。地政学リスクを含む不透明な時代において、M&AやDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術による業務や組織の変革)といった戦術を単なる手法として終わらせるのではなく、企業の根幹を刷新するトランスフォーメーション(構造改革)の契機としてどのように活用すべきかが重要なテーマとなります。
しかし、経営学は決してビジネスの世界だけで完結するものではありません。企業活動を通じて社会を発展させ、人々の豊かな暮らしのあり方を考え、示していく学問でもあります。学問の真理を追究することと、現場の経営者が深く納得し、意思決定に生かせる実用性を備えること。研究成果を社会に還元するため、この二つを高い次元で両立させたいと考えています。
経営学の本質は、共通原理やメカニズムの解明
本来、経営学は社会学的な手法を用いて、現場から得られるデータを統計分析し、仮説の検証により理論を体系化していく学問です。私は企業の統合報告書、サステナビリティレポート、経営者メッセージなどのテキストデータから企業が発信する価値観や戦略を把握し、その内容が企業業績や株式市場の反応とどのように関係するかを分析しています。しかし、日本の経営学においては、このような実証研究プロセスが十分に機能していない現状があります。
大きな要因として、1980年代から90年代にかけた日本の経済成長が挙げられます。当時、日本の製造業が世界を席巻したことで、海外の著名なビジネススクールでは、日本の成功要因を解明する需要が急増しました。その結果、当時の日本の研究者たちは、厳密な理論構築ではなく、成功事例の記述や紹介を主とする解説的な立場に置かれる傾向が強まりました。
日本の経営学界はここ10〜20年ほどかけて、こうした記述的・解説的な研究から、「科学的な実証研究」への転換を強く推し進めています。私自身も、経営学の本質は個別の企業の成功談を学ぶことよりも、その背後にある共通の原理やメカニズムを理解することにあると考えています。
多様な学問の追究が変化の時代を生き抜く力になる
経営学は、経済学、社会学、心理学といった「純粋学問(真理の探究を目的とする学問)」の領域から理論や知見を借り受ける「応用学問」です。だからこそ、経営のことだけを学んでおけばいいわけではありません。
「就職に役立つ」という実用性を期待して経営学科に興味を持つ人もいますが、実際に採用面接の現場で興味を引かれるのは、一見ビジネスとは無関係な分野を深く掘り下げ、その人なりの視点や人間性を培ってきた学生です。大学は単なる就職斡旋施設ではなく、こうした純粋な学問の探究を通じて、思考の土台を築く機関です。
例えば、マーケティングを一言で表すと「人の心をつかんで、モノを買わせること」です。心理学を学んだ学生とそうでない学生では、消費者への理解の深さが大きく異なるでしょう。変化の激しい時代だからこそ、目先の目的にとらわれずに多様な興味を持ち、学問の深みに触れてほしいと考えています。
この一冊
『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』
(入山章栄/著 日経BP社)
経営学に馴染みがない高校生も全体像を把握できる一冊です。経営戦略や組織論といった幅広い領域を扱いつつ、経営学が単なるビジネスのハウツーではなく、実証研究に基づく社会科学であることが分かりやすく書かれています。
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具 滋承
- 経済学部経営学科
教授
- 経済学部経営学科
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ニューヨーク大学大学院で修士(財政学)、早稲田大学大学院で博士(商学)を取得。外資系コンサルティングファーム等で経営戦略およびM&Aアドバイザリー業務に従事した後、国際基督教大学准教授などを経て、2026年より現職。
- 経営学科
※この記事の内容は、2026年6月時点のものです