JR東海と共同研究。新幹線の安全性に貢献する数値シミュレーションを開発

理工学部機能創造理工学科 
教授
曄道 佳明 

機械力学の立場から東海道新幹線の安全性をテーマに研究をしている理工学部の曄道佳明教授。地震を想定した数値シミュレーションや車両やレールの動きのメカニズムを探る研究、さらに上智大のプロジェクトである途上国の鉄道開発研究に関しても語っています。

東京から名古屋間を約1時間半で走行する東海道新幹線は、ラッシュ時ともなると1時間に10本以上が次々と東京駅を発車します。定刻通りに目的地に着く正確さ、そして何より開業以来、乗車中の死傷事故が1件もないことが世界から賞賛されています。これは安全性を徹底的に追求した取り組みの結果です。私は機械力学の立場からこの東海道新幹線の安全性をテーマに、JR東海(東海旅客鉄道)との共同研究を行っています。

研究の中心は高速で走る新幹線の動き、専門的には「動的挙動」と呼ばれるものをコンピューター上で模擬、つまりシミュレーションする技術の開発です。研究成果の一つが、走行中に地震が来た際に車両やレールがどう動くかを見ることのできる数値シミュレーション。速度や地震の数値など必要な情報を入力すると、挙動が数値化され、画面上に現れます。数値シミュレーションで最も大事なことは、実際の現象と照らし合わせた時の正確性です。実物の動きに100%近づけるために試行錯誤を重ねました。

現象がなぜ起こるかもシミュレーションで解明できた

JR東海には実物のレールと車両を使って実験できるシステムがあります。これは最も理想的な実験環境ですが、大がかりな装置だけに運用は容易ではありません。このような場合に、私たちが開発した数値シミュレーションが役に立ちます。想定外の地震はもちろん、限界までを予測することが可能です。

完成した数値シミュレーションをもとに、挙動が起こるメカニズムの解明にも成功しました。大きな地震が起こった際、車両の挙動やレールの動きがどのようになるのかを分析し、導き出した結果は、新幹線の安全装置の開発に役立てられたと思います。具体的には、「脱線防止ガード」という形でレールに設置されています。

「途上国の鉄道ネットワークの研究」にも注力

新幹線が社会から必要とされているのは高過ぎない料金で、快適に遠くまで移動できるからです。社会のニーズに応えつつ、安全性を担保することへのこだわり、「鉄道の命題は安全しかない」と熱く語る事業者の姿勢に感銘し、10年以上、共に研究を続けてきました。この出会いがなければ、高速鉄道の研究と言っても、速さだけを照準に進めていたかもしれない。研究には広い視野が必要で、社会にどう生かされるかを考えながら取り組むことが大事だと学びました。

それは2017年から始まった上智大学のプロジェクトである、「途上国の鉄道ネットワークの研究」にも生かされています。アフリカなどを対象に、どのように鉄道ネットワークを構築したら貧困や教育、環境問題が解決されるかを探る研究で、国から科学研究費の助成を受けて取り組んでいます。機械工学だけでなく、電気工学やシステム工学、さらには、開発経済学や開発教育学といった諸分野の研究者に集まってもらい、文理の枠を越えて、共同研究を進めています。実現には多くのハードルがありますが、いつの日かアフリカに高速鉄道ネットワークができることを夢見て、こちらの研究にも注力したいと思います。

この一冊

『本能はどこまで本能か ヒトと動物の行動の起源』
(マーク・S.ブランバーグ/著 塩原通緒/訳 早川書房)

行動や認識を形づくるのは「本能」であり、発達への理解が重要だと主張する神経学者のノンフィクション本。この本を読み、社会構造を作っているのは人間一人ひとりの行動や本能であり、命であることを実感。研究や社会貢献をするうえで大事な視点だと思いました。

曄道 佳明

  • 理工学部機能創造理工学科 
    教授

慶應義塾大学理工学部機械工学学科卒、同大学院理工学研究科博士前期課程機械工学専攻修了。博士(工学)。東京大学生産技術研究所助手、上智大学理工学部機械工学科助教授、同教授を経て、2008年より現職。2017年4月より上智大学長に就任し、現在に至る。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University