理工学部機能創造理工学科 教授 久森 紀之
人生100年時代。何歳になってもアクティブな生活を送るためには、膝や股関節などの関節の正常な働きが不可欠です。理工学部の久森紀之教授は、加齢と共に使い込んだ膝や股関節を代替する持続可能な人工関節の安全性と耐久性の高い素材の開発研究をしています。
私が研究しているのは、高度医療技術に用いられる生体機能材料開発です。専門は人工関節に用いる材料特性評価や試験方法の構築で、特に高い荷重が加わる人工膝関節や股関節に使われるチタン合金の開発に長年取り組んでいます。
人工膝関節は、変形した膝の代わりに体内に埋め込む医療機器で、非常に強い負荷が加わるため、耐久性と安全性が求められます。一度体内に入れたら点検や修理が難しいからこそ、長く壊れず、安心して使える素材が必要なのです。
私が学生だった頃、人工膝関節の耐用年数は約10年でした。今では手術技術や材料の進歩により20年ほどに延びていますが、まだ十分とは言えません。人間の寿命も延びているため、手術は60歳を過ぎてからでないと勧められないという状況が変わらないからです。私の目標は、もっと早くから安心して長く使える人工関節を作ること。痛みに耐える期間を減らせれば、快適な生活を送れる時間を長くできると考えています。
そのため、現在は3Dプリンタを用い、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの人工膝関節の研究を進めています。現在使われている多くは欧米製の人工関節で、日本人には微妙に合わないサイズや形のものも多いのです。そもそも関節の大きさや形は、人によって違います。その人に完全にフィットするものを作ることができたら、違和感なく、長く使えるものになるはずです。
3Dプリンタで作る製品は、金型に流し込んで作る従来の製法とは異なり、チタンなどの粉末をレーザーや電子ビームで溶かし、積層して作るため、材料の状態や特性、寿命も変化します。素材の強度、摩耗、疲労度がどれくらいなのか、どれだけ安全を担保できるか、データを収集し分析しています。目標は10年後の製品化です。
この研究を進めるために、私は慶應義塾大学医学部附属病院の整形外科と30年以上にわたって共同研究を行っています。医師と研究者では使う言葉も視点も異なるため、最初は戸惑いもありました。しかし「患者さんのためによいものを」という思いは共通しており、それが信頼関係の土台になっています。今では、臨床現場で課題が出たときは「久森に聞け!」と言ってもらえるようになりました。
実際に製品化された人工関節が好評だと聞くと、「社会に貢献できた」とやりがいを感じます。今後は上智大学という総合大学の利点を生かし、医療をテーマに文系と理系が連携した研究環境を作りたいと考えています。看護学、心理学、法学、経済学など、医療にはさまざまな分野が関わっています。学生とともに分野横断的な学びの場を作っていきたいと思います。
私の研究モットーは「正しくやること」。手を抜いても結果は出ますが、それは信頼できるデータとはなりえません。未知の分野に向き合いながら、誠実に、実直に取り組むことでこそ、本当に社会の役に立つ成果が生まれると信じています。「50年使える人工関節」は必ず作れる。私は工学者として、実学にこだわり、医学をつうじて研究成果を世の中に還元したいと思っています。
『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子/著 幻冬舎)
教育者、研究者、医療従事者であっても、心乱れることもあれば、眠れない夜もあります。そんなときに自分をなだめ、落ち着かせ、少しでも心を穏やかにする術をもたらしてくれる一冊。人はどんな境遇でも輝くことができるのです。
久森 紀之
工学院大学工学部卒、同大工学研究科工業化学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。上智大学理工学部機能創造理工学科助教、同准教授を経て、2018年より現職。
※この記事の内容は、2024年11月時点のものです
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より安全な素材で、耐用年数の長い人工関節を開発して医療に貢献したい