テストの開発に役立つ理論やデータを導き出す、言語テスティング研究とは?

言語教育研究センター
准教授
佐藤 敬典

言語教育研究センターの佐藤敬典准教授の専門は、英語の言語テスティング研究です。言語テストの開発や有効性の検証に関わるというその研究目的や、実際の調査で用いる「Think-Aloud」と呼ばれる手法について語っています。

私の専門は、英語の言語テスティング研究です。内容としては応用言語学に分類される学問で、言語テストの開発に役立つさまざまな研究を行うこと、そこで得られた知見を基にテストの有効性や妥当性を検証することなどを目的としています。

言語テスティングの研究成果は、日本で実施されている多くの語学力テストに反映されています。例えば、英語のコミュニケーション能力を測るテストを制作する場合、そもそも「英語のコミュニケーション能力」とはどのような力なのか、どのような方法でレベルを判断すべきなのかなど、その定義や評価指標を具体的に示すのが、言語テスティング研究の役割です。テスト開発者はその内容を参考にして、出題形式や問題の内容、構成を考えるわけです。

コミュニケーション能力の定義付けは、重要な課題

グローバル社会とつながる力が重視される昨今、コミュニケーション能力の定義付けは、言語テスティング研究における重要テーマの一つになっています。言語を使ったコミュニケーションには口頭によるものと文章によるものがありますが、スピーキング力やライティング力が高いということは、言い換えれば、コミュニケーションの相手方である聞き手や読み手から高く評価される力を持っているということです。ならばその力とは一体何なのか? コミュニケーション能力を正しく定義するためには、まずこの部分をクリアにする必要があります。

コミュニケーションにおける相手方の評価を知る手法として、私は考えたことをそのまま発言してもらう Think-Aloudというメソッドを使っています。これは評者が書き手の文章を読みながら、あるいは事前に録画した話し手のスピーチを見ながら、「前後のつながりがおかしい」とか「この表現は分かりやすい」といった感想を同時進行で報告し、研究者がその内容を後から分析する手法で、通常であれば言葉にされることがない感情の動きを逐一観察できるのがメリットです。

ジェスチャーや表情もスピーキング力の一部

以前、スピーキングの調査を行った際に興味深かったのは、会話中のジェスチャーや顔の表情をポジティブに評価するコメントが多かったことです。英語のスピーキングでは発音、流暢さに関心が集中すると思っていたので、この結果は少し意外でした。この調査は話し手や評価者が誰かによっても結果が異なってきますが、少なくとも、ネイティブのような発音、流暢さだけがスピーキング力を評価する要素でないことは確かです。こういった調査結果はテスト開発だけでなくスピーキングを学習する際のポイントとしても役立ちますので、大学の授業でも紹介しています。

今、力を入れている研究テーマは、ライティングにおける批判的思考力の定義付けです。批判的思考力は21世紀型スキルとして注目されているものの、その具体的な内容や評価の仕方は、いまだに確立されていません。今後の研究ではそれらを明らかにしつつ、ライティングとスピーキングにおける批判的思考力の定義や評価指標の違いなど、さらに発展的な研究にも取り組みたいと思っています。

この一冊

『Measuring Second Language Performance』
(T. F. McNamara /著 Pearson Education)

修士課程在学中に読んだ本。著者は私がメルボルン大学留学中に師事した言語学者です。英語のコミュニケーション能力を構成する要素として、言語能力以外の部分にここまで焦点を当てた本は、あまりないと思います。

佐藤 敬典

  • 言語教育研究センター
    准教授

秋田大学教育文化学部学校教育課程卒、上智大学言語科学研究科博士前期課程修了、メルボルン大学言語科学研究科博士後期課程修了。博士(言語学)。玉川大学ELFセンター助教、上智大学言語教育研究センター助教を経て、2021年より現職。

言語教育研究センター

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University