儀礼は社会に必要不可欠。コミュニティ意識の向上に貢献する

文学部フランス文学科
教授
ブルーノ・ペーロン

文学部のブルーノ・ペーロン教授は「儀礼」の研究に取り組み、その社会的役割や重要性のほか、芸術的側面およびフランスにおける新たな儀礼の出現についても考察しています。ペーロン教授は儀礼が人々の日常的な体験を向上させ、コミュニティ意識を高めると指摘します。

私の主な研究テーマは「儀礼」で、具体的には、その社会的役割や新たな儀礼の発展過程に重点を置いています。このテーマに興味を抱いたのは、1991年にエイズで亡くなったフランス人作家・ジャーナリストの、エルヴェ・ギベールの自伝に関する博士論文の執筆がきっかけでした。私はギベールとほぼ同世代のため、彼の人生が深く心に響いたのです。書く行為に対するギベールのアプローチに魅了され、そこに儀礼を見出しました。ギベールは執筆に取りかかる前の日課として、一連の習慣を守っていたのです。彼の儀礼的アプローチの考察から、作家生活における儀礼の重要性が浮き彫りになりました。こうして、私は執筆に関わる儀礼に興味を持ち、やがて政治的儀礼に関心を抱くようになりました。

日本社会は入学式や卒業式、入社式など儀礼が豊富ですが、それとは対照的に、フランス社会は儀礼が比較的少なく、その理由は歴史上の出来事から説明できます。18世紀のフランス革命は、平等を掲げて旧制度の象徴を退けたことで、儀礼を含む伝統の廃止につながりました。1968年にフランスで起きた五月革命では、学生や労働者を中心とした反体制運動によって儀礼の衰退がさらに進んだのです。

儀礼は目的意識を高め、日常的な体験を向上させる

儀礼は象徴的な役割と本質的な役割を兼ね備え、私たちの行動に意義を与えます。儀礼はまた、日常的な体験における目的意識を高め、自分の感覚、所作、身体に集中する機会をもたらします。例えば、日常生活の中では、勇気という感情を抱くことはあまりないかもしれません。儀礼は式典などの行事を通じて、人々に勇気を奮い起こす機会を与え、その感情を味わわせてくれます。

同様に、儀礼は正義、愛、公正、尊敬などの価値を具現化することもできます。これらは大抵、人の心に宿るものですが、私たちはその存在を常に認識しているわけでも、それを表現する機会に恵まれるわけでもありません。儀礼はこれらの価値を、抽象的な概念から目に見える美徳へと変換します。舞台に立つような経験をもたらし、人々が美徳を披露するだけでなく、信念を内面化したり、外に表現したりする機会も与えてくれるのです。

フランスでは微細な変化が起きており、見過ごされがちではあるものの、儀礼の再興が始まっています。例えば、同性カップルの間では独自の結婚式のしきたりが生まれています。また、自然主義の支持者たちは「堆肥葬」に関心を持ち、従来の葬儀に代わる新たな儀礼を生み出しています。これは高度に管理されたプロセスにより、遺体を自然な形で生分解させ堆肥化する埋葬法です。

フランスで2018年に始まった反政府デモ「黄色いベスト運動」もまた、新たな儀礼につながりました。この抗議運動は、黄色い安全ベストを着用したデモ参加者が環状交差点を占拠したことから名付けられました。フランスでは、この視認性の高い黄色ベストを車に装備するよう義務付けられていることから、デモを象徴する服装として使われたのです。

このベストは、儀礼につきもののユニホームの役割を担いました。さらに、デモ参加者は抗議の場として環状交差点を戦略的に選びましたが、ここには重層的な象徴性が認められます。環状交差点は街の中心部に位置することから、社会的重要性を持っています。人々に動きを指示する信号機とは異なり、環状交差点は自分で進路を決める権限を個人に与えるため、政府の統制に対して自主自律を主張する大衆の象徴として機能するのです。

儀礼を導入する鍵は、民主主義、芸術、教育

儀礼の導入にはいくつかの重要な要素があります。まず、政治的儀礼は民主主義社会に限定されるべきです。政治的儀礼が独裁体制下で用いられた場合、極端な行動を助長したり、洗脳目的で利用されたりする恐れがあります。歴史がこれを証明しており、ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーは儀礼を大々的に使って自分の考えを喧伝しました。

また、儀礼の芸術的表現も重要です。儀礼は表現の機会を提供するものであるため、その導入にあたっては、文学、音楽、舞踊、写真など、芸術のあらゆる要素を取り入れるべきです。そうすることで、参加者はさまざまな感覚を十分に働かせることができます。

同じく重要なのは、儀礼を導入するタイミングです。教育制度の早い段階で始めるのが望ましく、3歳前後が理想的です。儀礼への参加は強制せず、成績もつけるべきではありません。

フランスでは、儀礼に対する認識が不足しており、その重要性の理解も限られています。フランスの教育は揺るぎない個人的見解や個性を育てることを重視しますが、このことが意見の対立に満ちた社会形成の一因となり、効果的な統治に課題をもたらしているのです。儀礼の導入はコミュニティ意識を高め、対立を緩和する可能性を秘めています。私は儀礼研究を通じて、人々の日常的な体験の向上に広く貢献できるよう願っています。

この一冊

『Le Petit Prince(星の王子さま)』
(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/著  Gallimard)

普遍的な魅力を持ち、文化を越えて愛されるこの本は、聖書に次いで最も多くの言語に翻訳されています。思い思いに内容を解釈できる自由さが、あらゆる年代の読者を惹きつけます。大人は空想にふけった子ども時代を思い出し、この本の深く徹底した洞察を通して、我が身を省みるきっかけになるでしょう。

ブルーノ・ペーロン

  • 文学部フランス文学科
    教授

1995年オレゴン大学にて博士号(ロマンス語学)、2002年リヨン第二大学にて博士号(文学)を取得。1997年より上智大学に勤務。

フランス文学科

※この記事の内容は、2023年7月時点のものです

上智大学 Sophia University