第1回「人間の安全保障と平和構築」〜 2022年4月26日 実施報告

2022年4月26日(火)午後7時05分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の2022年度の第1回目が、オンラインにて開催されました。当日は、世界中から200人を近い方が参加されました。

小田原副大臣

この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生や市民、外交官やNGO職員、国連職員、政府職員、マスコミや企業など、多様な分野から集まった人たちが、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。2016年4月より実施していますが、2021年度より、新型コロナウイルス感染症の影響のためオンラインで実施しています。本年度第1回目のセミナーでは、小田原潔・外務副大臣に「ロシアのウクライナ侵略と日本外交:平和作りを支援する困難と意義」をテーマにご講演頂きました。

曄道学長

冒頭挨拶では、曄道 佳明・上智大学教授(上智大学長)が、小田原副大臣がロシアのウクライナ侵攻で激務が続く中、上智大学において特別講演を引き受けて下さったこと、そして、学生との対話の機会も作って頂いていたことについて深い謝意の念が示されました。そして、このような悲惨な戦争が続いている中、どうすれば平和を作ることができるのかを共に考えることの意義について強調しました。

青木教授

続いて、青木 研・上智大学教授(人間の安全保障研究所長)が、上智大学人間の安全保障研究所が5つの分野(「貧困」「保健・医療」「環境」「移民・難民」「平和構築」)において、研究・調査・発表を続けていること、その中の一つの分野である「平和構築」において、このセミナーが大事なプロジェクトになっていること、そして戦争が、人間の安全保障にとって大きな脅威であることは間違いなく、平和を作っていく活動の意義がより一層大きくなっていると力説しました。

その後、小田原外務副大臣による講演が行われました。小田原副大臣は、8歳の時に沖縄返還のニュースを知り、「占領されていた沖縄が、戦争もせずに、米国から返還された事実を知り、外交や政治の重要さ、大切さを実感し、それから一貫して政治家・国会議員を目指してきた」と、自らの原点と志について語ってくれました。大学卒業後、金融機関に勤めながら、自民党の公募に5回応募したこと、一度、参議院選挙に出馬して惜敗したが、その後、東日本大震災の被災地で、1年間ボランティアとして支援に携わった後、2012年に衆議院で自民党から再度立候補し、非常に厳しい選挙区であったものの、見事、初当選を飾り、大変な苦労と努力を重ねて国会議員になったこと、それから衆議院議員として4回の当選を重ね、2021年に外務副大臣に就任したことなどを熱く語ってくれました。

今回のロシアのウクライナ侵略については、ロシアのプーチン大統領の狙いや最終的な目標に関し、色々な報道や推測はあるものの、今も明確でないことから、この戦争が数年単位で続く可能性があることを見据えながら、日本としての対応を考えていく必要性を力説しました。

また、現在の戦争や紛争を俯瞰すると、一つは、冷戦後の30年で大きな力を持つようになった独裁的な国家であるロシアや中国に起因するもの、もう一つは、国家の中で統治がままならない脆弱国家において、軍事紛争(内戦)が起きていることを指摘しました。

独裁国家については、西側社会が急速に進化させてきたAI(人口知能)や顔認証制度、自動運転などの技術的飛躍が、皮肉なことに、独裁国家である中国やロシアの統治に利用されている実態を指摘しました。西側諸国が発展させたこういった先端技術を独裁国家が統治に利用することで、さらに統治を強化するというパラドックスについて語り、日本や西側諸国がそれと向き合っていかなければならない現実を直視すべきと主張しました。

他方、脆弱国家では、一つの国としてのまとまりをもてない国や、統治方法で意見が一致しない国々で、紛争が起きてしまっていることを認識した上で、国連や国際社会は一時的に介入や支援はできるものの、「最終的にはその脆弱国家自身が、自らの手で自立する必要がどうしてもある。そうでなければ、持続的な平和や安定は築けない」という非常に重要な見解を述べられました。

こうした状況を踏まえつつ、学生の人たちには、少しでも世界のことを多層的に知って欲しいと語られ、最近読んで感銘を受けたいくつかの本もご紹介頂きました。

最後に、今後日本の平和の問題への向き合い方について、脆弱国家の平和作りなどを支援するのはもちろん続けるものの、今回のロシアのウクライナ侵略を見ても、「やはり日本政府としては、日本人の安全や命を守ることを最大の目標にしなければならない。つまり、何が日本の国益になるかを懸命に考え、それを守り増やしていくために政府としては努力すべきと確信している」と講演をまとめられました。

前嶋教授

講演の後、コメンテーターを務めた前嶋 和弘・上智大学教授(総合グローバル学部長)が、小田原外務副大臣の講演に謝意を伝えつつ、その講演内容のポイントを指摘し、最後に四つの質問をされました。1)ウクライナの人々を含め、日本が難民・避難民支援でさらに何ができるのか。2)ロシアという隣国とどう付き合うのか。3)エネルギー安全保障と気候変動対策にどう向き合うのか。4)地球規模の安全保障:NATOと日米同盟、AUKUSとの関係強化などについて、質問されました。

また10人を超える学生からも、国連安保理の課題、脆弱国家の自立を支援すること、人間の安全保障の関係や課題、ロシアへの侵略への具体的な対応、経済制裁の効果や限界などについて、多様な質問が出されました。小田原副大臣は、そういった質問に一つ一つ、丁寧に答えて下さり、議論も非常に盛り上がりました。

東教授

会の最後に、この連続セミナーを企画し、司会も務める東大作教授(上智大学グローバル教育センター)が、まずはウクライナ戦争を世界大戦にエスカレートさせないために、西側諸国だけでなく、非民主的な国家も含め世界全体で対応をしていかなければならないこと、また今後、欧米諸国の圧倒的な関心がウクライナ戦争やロシアに向いていく中で、日本は、その解決に向けて共に努力すると同時に、欧米諸国が外交的資源を向けることが難しくなっていく中東やアフリカの平和や自立、安定のために尽力することは、現地の国や人々からも、先進国からも感謝されるであろうこと、そして日本は、石油などの地下資源を圧倒的に中東に依存しており、その平和や安定に寄与することは日本の国益にとっても極めて重要であることなどを指摘しました。そして2時間たっぷりセミナーで講演者を務めてくださった小田原潔外務副大臣に改めて深く謝意を伝え、会を締めくくりました。

上智大学 Sophia University