モノの「心地よさ」を学術的に解明し、製品開発に生かす

モノを使ったとき、人はなぜ「心地よさ」を感じるのか。理工学部の竹原昭一郎教授は、機械工学的な観点だけでなく、人の体や心の動きまでをも含めて解明し、実際の製品開発につなげていきたいと語ります。

私たちはモノを使ったり、乗り物に乗ったりしたとき「使い心地がよい」「乗り心地がよい」と感じます。反対に、「使いづらい」「乗り心地が悪い」と感じることもあります。なぜそう感じるのか。基準はどこにあるのか。自分自身でも気づかないことが意外に多いものです。人が感じる心地よさ、快適さを科学的に解析し、実際の製品開発や製品評価に生かすことが、私の主な研究テーマです。

心地よさを解析するには、人がモノを使ったとき、体がどう動くのかを計測する必要があります。さらに、その動きがどのような感覚を生み、人の心に影響するのかといった一連のプロセスを研究しなければなりません。そのために、三つの工学分野を統合して研究を進めています。機械が動くときの力と運動の関係を扱う機械力学、人間と他の要素との相互作用を理解するための人間工学、人の心や感じ方などを商品設計に活用する感性工学の三つです。

自動運転車のブレーキの好みを類型化する

研究対象は幅広く、ゴルフクラブ、テニスラケットといったスポーツ用具、自動運転車、鉄道車両などの乗り物、さらにはランドセルなど人が使うモノの多くに応用が可能です。実際の製品開発の方向性を見いだすため、これまで自動車メーカー、鉄道会社などとの共同研究も行ってきました。

メーカーとの自動運転車のブレーキに関する共同研究を例に挙げてみましょう。車が止まるとき、ゆっくり、なめらかにブレーキが利いたほうが安心できる人がいます。逆に体に少しショックを感じるぐらいの止まり方でないと不安を覚える人もいます。ブレーキの利き方に対する好み、つまり、心地よさは人によってさまざまです。

この共同研究では、ブレーキがかかるときの体の動きをモーションキャプチャーで詳細に測ったり、視線を計測したりしました。また、ブレーキの利き方に対する感想などを把握するためにアンケート調査も実施。モーションキャプチャーで測定した人の動きと、アンケート調査の結果を統合して解析したところ、これまで千差万別と思われていたブレーキの利き方の好みをいくつかのパターンに分類できることがわかりました。製品開発の方向性を定める際に、人の感性を用いる試みは多くなされていますが、アンケート結果の平均を取るような方法では、なかなかうまくいきません。この研究を通じて、個人の好みを類型化することで、感性を製品開発に活かせることがわかったのです。

人への関心がモチベーションの根底にある

実際の製品発売に至った研究事例としては、株式会社ニトリとの共同研究による「子どもにとって快適なランドセル」の開発があります。感性工学的な観点などから、子どもたちにとっての快適さにつながる要因を研究したところ、ランドセルの生地と背中の摩擦係数が高い、つまり、背負ったときに滑りにくいランドセルに快適さを感じることが判明したのです。共同開発したランドセルは2020年3月に発売され、19年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

機械工学は、モノの研究が中心になりがちです。しかし、私の研究のモチベーションの根底にあるのは、「人はなぜそのように行動するのか」といった人への興味です。モノ作りを極めるヒントは人にあります。ユーザビリティーに優れたモノを作るためは、モノを使う人の動きや感じ方までをも含めて科学的に数値化し、見える化する。それがモノ作りの新しい指針になり、多くの心地よい製品が世の中に生み出されることにつながると信じて、日々研究に取り組んでいます。

この一冊

『人を動かす』
(デール・カーネギー/著 創元社)

生き方のヒントがたくさん書いてあります。昔から、周囲の人に恵まれていると感じていますが、この本を読んで、相手の背景を考える癖がついたことが、多くの人とよい関係を築く際の一助になっていると思います。

竹原 昭一郎

  • 理工学部機能創造理工学科
    教授

上智大学理工学部機械工学科卒。上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。東京大学生産技術研究所特任助教、 首都大学東京(現・東京都立大学)都市教養学部都市教養学科機械工学コース助教、名古屋大学グリーンモビリティ連携研究センター特任講師を経て、2013年、上智大学理工学部機能創造理工学科准教授に着任。2020年から現職。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2023年6月時点のものです

上智大学 Sophia University