8月21日、横浜市のパシフィコ横浜において、上智大学とユネスコ・アフリカ地域能力開発国際研究所(UNESCO-IICBA)の共催により、シンポジウム「アフリカの教育の未来を語る世代間対話:次の10年を見据えて」を開催しました。

本学国際協力人材育成センター長の近藤 哲生特任教授が司会進行を務め、比較教育学、国際教育学を専門とする杉村 美紀学長がパネリストとして登壇しました。アフリカ連合(AU)の新しい大陸教育戦略(CESA 26-35)を軸に、政策担当者、若者、研究者らが一堂に会し、アフリカ教育の未来について活発な議論を展開しました。

TICADは、1993年以来、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行及びアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催している国際会議です。TICAD9期間中は、産官学・市民社会など多様な団体がセミナー・シンポジウム、パネル展示などのテーマ別イベントとして実施しており、本シンポジウムもその一環として行われたものです。
基調講演では、AU委員会で教育部長を務めるソフィア・アシパラ氏が新大陸教育戦略策定の背景を説明し、「技術変化、気候変動、第4次産業革命など、21世紀の現実に対応できる教育システムが必要」訴えました。続いてUNESCO-IICBA所長のクエンティン・ウォドン氏が、CESA26-35の策定プロセスには多くの市民、政府関係者、教育関係者、協力機関などから多くの人々が参加したことに触れ、その策定がこれまで以上に参加型であったことを紹介。教育への投資の重要性を改めて訴えました。


ラウンドテーブルでは、各分野の専門家が具体的な課題と解決策を議論しました。ナイジェリア・ユネスコ委員会で事務局長を務めるラティーフ・オラジュング氏は、「戦略遂行上、最大の課題はデータの管理活用が不十分であること」と指摘し、信頼できるデータなしには適切な政策介入ができないと強調しました。アフリカ教員資格認定機関連盟(AFTRA)事務局長のスティーブ・ンウォケオチャ氏は、教職の魅力向上について「教師を専門職として位置づけ、キャリアパスを明確にすることが重要。ナイジェリアでは教師登録により賃金を27.5%引き上げる制度を導入し、結果が出ている」と成功事例を紹介しました。
国際基督教大学の西村幹子教授は、ケニアでの経験を踏まえ、教師同士の学び合いと地域コミュニティとの連携が教育の質向上の鍵であると指摘しました。成功例として「北陸のたちが学習成果の面でよい結果を得られているのは、学校が地域社会に開かれ、教師も互いに学び合っているからといえる。学校はもちろん、保護者、地域が教育に関心を持ち、関与していくことが重要だ」と紹介し、連携の重要性について解説しました。



本学の杉村学長は、アフリカの戦略的発展と大学の役割について、協働と連携、そして教育の質保証を重要なポイントとして示しました。「協働により大学は人的・物的資源を共有でき、学際的な教育・研究活動を促進できる」と述べ、大学間のネットワークの意義を強調しました。
そして、1977年からJICAと連携するケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学が「41のアフリカ諸国から1,000人超の学生を受け入れる中核機関に成長している」と教育連携の成果を紹介しました。
また、上智大学の取り組みとしてアフリカの14カ国17大学との協定に基づく教育研究活動や、約140人の日本・アフリカ諸国の学生が参加した第2回模擬アフリカ連合会議(※)に触れ、「プログラムに参加した学生たちが刺激を受け、アフリカとの関わりを通じて将来を描く若者が育っています。これこそ若者の力であり、教育の力です」と語りました。


マリで若者向けプログラムを展開する、アイサタ・タンデ氏は、「経済的障壁をなくし、真に包括的な教育を実現すべき」と訴えました。文化的・経済的なさまざまな理由で教育を受けることができなかった人々を対象とするセカンドチャンスプログラムでの成功事例を紹介し、「学びたいという人々の声に耳を傾け、アフリカを変える力を持つ人たちをサポートしてほしい。人生を変えていく手段を彼らに授けてほしい」と力強く呼びかけました。

質疑応答では、言語圏の違いや教師の質の向上、AIやオンラインツール活用の可能性など多岐にわたる議論が展開されました。
閉会挨拶にて、ウォドン氏が「この戦略は10年に1回しか策定されない重要なものです。今後1年間で皆さんの経験を反映し、インパクトのあるCESAにしていきたい」と述べ、継続的な協力の必要性を訴えてシンポジウムを締めくくりました。