ロシアのウクライナ侵攻が世界のエネルギー安定供給体制に大きな影響をもたらしています。本学では5月15日、上智学院サステナビリティ推進本部、上智大学経済学部経済学科および資源エネルギー庁の共催の下、資源エネルギー庁長官 保坂伸氏を講師に招き、「世界の中の日本のエネルギー情勢」と題して講演会を開催しました。その趣旨は、グローバルな視点でのエネルギー問題、さらにはサステナブルな社会を構築していく上での課題について、次世代を担う高校生、大学生など若者たちと共に考えようというものです。会場となった本学四谷キャンパス2号館への来場者およびオンライン参加者は合わせて約150人。講演会後半のパネルディスカッションには、本学学部生の他、高大連携として2人の高校生が登壇しました。
冒頭、西澤茂高大連携担当副学長から、講演会開催の目的や講演会実現に至る経緯の紹介があり、講演が始まりました。保坂長官は、まず、複雑なエネルギー問題や政策について参加者の理解をより深めてもらうために、人類の歩みとエネルギーの確保・利用、二酸化炭素(CO2)問題を大変分かりやすく解説しました。もともと地球はCO2が充満していた星であり、光合成によって酸素が生まれ空気中のCO2濃度が減り、人間やその他の動物が地球上で生存できている。産業革命以降、化石燃料の利用が必要以上にCO2を増やし続け、人間、動物が暮らしていけない地球に逆戻りしつつある。この状況をコントロールしCO2問題を解決しなければならない。その一方で、現在の世界人口約80億人がCO2を気にすることなく暮らしてきた歴史があり、各国それぞれの事情がある中で、先進国と足並みを揃えCO2の排出削減や風力・太陽光など再生利用可能エネルギーの導入が難しい国もある。また、CO2を排出しない原子力発電はコントロールが難しいという課題もある。こうしたさまざまな困難な状況の中で、何を考え物事を進めていくのか、これがエネルギー政策の本質であると述べました。
次に、日本のエネルギー自給率、電源構成について触れ、エネルギー政策の大原則S+3Eについて論じました。Sとは安全性(Safety)、3Eは安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)です。ロシアのウクライナ侵攻前、世界は環境適合に向かっていたが、侵攻後のいま安定供給に戻ってきている。さらにコロナによる景気悪化で、経済効率性のコスト問題も起こっている。この3Eをバランスよく行う必要があり、環境適合のCO2問題をクリアしたとしても、国が貧しくなる、停電するという訳にはいかない大きな課題に直面していると述べました。
さらにロシアからの石油・天然ガスの輸入規制による世界全体の供給量不足や価格上昇について触れ、日本は自国のみではなく世界80億人のことを考え、またアジアの代表としてアジアのために意見を言わなければならない。それがこの国が生きていく道であり、我々の責任であると強調しました。
講演会後半のパネルディスカッションは、鈴木政史地球環境学研究科教授がファシリテーターを務め、保坂長官と本学学部生3人、高校生2人(栄光学園中学高等学校、横浜雙葉中学高等学校)が登壇しました。学生、生徒たちが講演を聞いた感想と質問を伝え、長官がひとつひとつ丁寧に回答していきました。脱炭素を促すインセンティブは何か、地熱発電が普及しない理由は、今後日本で水素エネルギーが導入されるのか、エネルギー分野はどの様に学んでいけばよいか、半導体についてなど。この他にも、会場やオンライン参加者から、資源エネルギー庁で働くためにやっておいたほうがよいこと、教育機関に期待することなど次々と質問が出るなど関心の高さがうかがえました。
エネルギー政策の重責を担う保坂長官を迎え、日本と世界のエネルギー状況について学ぶ大変貴重な機会となりました。